鴻上尚史が説明した日本人の2つの性質
来ましたね。ある意味、僕が『ほがらか人生相談』を始めた理由の質問がいきなり来ました。じつは、こういう質問に答えるために、僕はこの連載を始めたいと思ったのです。
いきなり、身もフタもなく言えば、「みんなが同じになろう」という「同調圧力」は、日本の宿痾(しゅくあ)です。「宿痾」おどろおどろしい漢字ですね。広辞苑さんによれば「ながい間なおらない病気」です。
もう少し正確に言うと、「同調圧力の強さ」と「自尊意識の低さ」が「宿痾」です。
「自尊意識」とは、自分を大切にし、自分をバカだと思わず、自分が生きていていいのかと疑問に思わず、自分の発言に自信がなくて言いたいことが言えないなんてことがない、自分はかけがえのない自分であるという意識です。
で、この2つがいきなり日本人は世界水準で強くて低いです。そうすると、どういうことが起こるかというと―。
『不死身の特攻兵~軍神はなぜ上官に反抗したか』(講談社現代新書)という本を書いたのですが、その中でこんなエピソードを紹介しました。
1945年8月2日、奥日光に疎開していた明仁皇太子が戦況の見通しを説明にきた陸軍中将に対して「なぜ、日本は特攻隊戦法をとらなければならないの」と質問しました。
この時、有末精三(ありすえせいぞう)中将はこう答えました。
「特攻戦法というのは、日本人の性質によくかなっているものであり、また、物量を誇る敵に対しては、もっとも効果的な攻撃方法なのです」
後半は結果的には誤解ですが、ここではスルーします。問題は前半です。
「特攻戦法というのは、日本人の性質によくかなっている」―さらっと言っていますが、ものすごく恐ろしい言葉です。いったい、「必ず死ぬ」「培かった飛行技術を否定する」「組織決定として死ぬことを命令する」という作戦が相応わしい国民とはどういう国民なんでしょう。
結果としての自己犠牲はありますよ。ハリウッド映画なんかで、最終的に体当たりして隕石を爆破するなんて描写があります。思わず泣いてしまいますが、それは個人が最終的にやむにやまれずやることです。
けれど、日本軍の特攻は、近代軍隊が組織命令として死ぬことを要求したのです。世界中の近代軍隊で「死ぬ命令」を組織として出した例は日本軍以外ありません。
誤解を恐れず言えば、「同調圧力が強く」「自尊意識が低い」からこそ、特攻という作戦は成立したのです。
悲劇的なのは、初期の特攻に選ばれたパイロットは、みんな、ベテランだったことです。みんな、高い自尊意識を持っていました。