弟子を取らないことで「その芸が途絶えたらどうするんですか?」と聞かれるんですけど、腹話術はなくならないですよ。必ず新しいスタイルの腹話術が出てくるので、心配なんかしてないです。
実際、今年2月に、神戸の腹話術師やないあつ子さんが企画をされた『F−1腹話術グランプリ』が開催されて、全国から独創的な腹話術師が集まり、大いに盛り上がりました。僕は審査員をやったんですよ。
自分でも感じている再ブレイクの予感
――いっこく堂さん自身がさらに変化を遂げて、腹話術がアップデートする可能性もありますよね。
いっこく堂 芸に対する考え方は大きく変わってきましたね。出発が舞台俳優だったので、芸人でありながら「台本型」だったんです。台本を自分で書いて、それを忠実に追っていく。
それゆえに、テレビ番組でネタを披露するときに、ちょっと横から口を挟まれると集中できなくなってしまうこともありました。でも、コロナ禍のなかでいろいろ考えることもあり、「それはちょっと違うな」と思うようになったんです。
――「台本型」からどのように変化したのでしょうか。
いっこく堂 これからは起承転結だけざっくり決めておいて、臨機応変にアレンジしながら、結に向かっていくスタイルに変えていこうと。あとはもう毎回セリフが変わってもいいやって。道で例えるならば、曲がり角。ある角で右に曲がることさえできれば、きちんと結論にたどり着ける。そういうやり方にすればいいんだなって。
ここにきて「台本型」から「芸人型」に変われた気がしますね。
――それは、長年のキャリアからくる余裕みたいなものですか。
いっこく堂 余裕でもあるでしょうね。そんな心境の変化もあって、いまでは「今日はこういうテーマで」なんて突然言われても対応できるように、シミュレーションしながら稽古をしています。一方で、英語ネタなんかは即興では話せないので、台本型の稽古も継続していますよ。
――コロナでステージは減ったものの、テレビ番組では腹話術そのものにクローズアップする企画が増えたと仰っていましたね。この背景には、なにがあると思われます?
いっこく堂 家にいる機会が増えたことで、なにかやってみたいなって人が増えてきたってことなんじゃないですか。そこで「腹話術といえば、いっこく堂だよね」みたいに思い出してもらえたんでしょうね。
――僕もバズった「リモート会議」のネタを見て、やっぱり面白くて凄いなと改めて感嘆すると共に「いっこく堂、また来るな」とも感じたんです。
いっこく堂 実は僕もそう感じてるんですよ。なんででしょうね(笑)。
写真撮影=末永裕樹/文藝春秋