対戦相手の煽りに「はぁああああああ?」
ーーすぐさまエントリーですか。
進一 キックボクシングを始めたのが3月だけど、6月には試合があるって知って。すぐエントリーして、みっちり練習しましたね。
その試合当日の3日前ぐらいに、対戦相手が在籍する店の代表がSNSで「オナベ? 女の子が相手だったら余裕だわ」と、僕を中傷するような書き込みをしてきて「はぁああああああ?」みたいな。「おめぇ、どんなに痛い思いをして性別を変えたと思ってんだ。こちとら、なめんじゃねぇぞ!」と。
それを書き込まれるまでは、そんなに勝ち負けにこだわってなかったんですよ。「ただただ一生懸命やろう。試合、たのしみ~」だったのが、一転して「なにがなんでも勝ってやる! ぜってー沈めてやる!」になっちゃって。
もちろん、生粋の男性社会を味わってないから、その苦労は知らないですよ。けど、その言い方はないでしょって思ったんです。
ーーもう、個人と個人の戦いじゃなくなりますね。
進一 その書き込みを知った周りのFtMも、「進一、やっちまえよ」ってカンカンですよ。みんなの気持ちを背負ってるから、負けるわけにいかない。だから、初試合はすごい緊張したんですよね。
ガッチガチになっちゃってるから、キックボクシングやってるのにキックを使わずにパンチだけ。延々と、ワンツー、ワンツーみたいな。だからKOはできなかったけど、判定で3対0の圧勝を掴みました。本気で嬉しかった。
ーー今後、格闘技に専念する可能性は。
進一 そっちはないかな(笑)。僕はあくまで店の人間なので。僕のメインディッシュは、このバーだから。店をやりながらプロの格闘家ってのもあるんだろうけど、どっちつかずみたいだと他のプロ選手の方たちに失礼になっちゃうでしょ。やるんだったら、店を捨ててやるくらいじゃないと。水商売を極めてすらいないから、それはないですね。
ただ、これからFtMの格闘家や選手はどんどん出てきてほしいですね。その道は僕が作ったんで。
写真=平松市聖/文藝春秋
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