私が『町田くんの世界』を観たのは映画館ではなく、公開されてからしばらく後、Amazonプライムビデオである。きっかけはズバリ前田敦子。当時はファンでもなんでもなかった。ところが予告編に彼女が「あ?」とすごむシーンがあり、その、ほんの一瞬の「あ?」でハートをガサッと持っていかれてしまった。
予告を何度も何度もリピートし、あっちゃんが誰にどんな理由で「あ?」と言っているのか、どんな役なのか、どう活躍するのか、確認しないと気が済まなくなったのだ。
いざ本編を観ると、ヒロインの理解者となる栄役。彼女の掠れた声と乾いた笑顔が、ぶっきらぼうだけど優しいキャラクターにピタリとハマリ、凄まじい引力。AKB時代の「ひたすらヒステリックな人」というイメージがガラリと変わった。『町田くんの世界』は前田敦子を好きになる映画でもある。
そんな前田敦子と、あざとい女子を演じる高畑充希という手強い二人を前に、関水渚は「人間苦手」のイライラ演技を炸裂させていた。そのムスッと感にとても「ヒロインみ」が漂い、好きにならずにはいられない。関水がバシャーンと芸達者たちの水の中に飛び込み、心地の良いリプルが広がっていく感じがなんとも心地良かった。
突然のヒロイン抜擢に「不安です」と……
関水渚のプロフィールを辿ると、ドラマ『リッチマン、プアウーマン』を観て石原さとみに憧れて芸能界を志し、2015年の「第40回ホリプロタレントスカウトキャラバン」のファイナリストに選抜。演技はゼロのまま2019年『町田くん』の1000人を越えるオーディションの中から選ばれ、ヒロインに抜擢されている。
いやはや、素晴らしい栄光の道だけれど、恐ろしいほどの重圧も味わったはず。
『町田くんの世界』のオーディション後、豪華キャストと共演することを知らされる映像が、YouTubeに上がっているが、これがもう観ているだけで胸が痛い。
岩田剛典、高畑充希、前田敦子……次々と共演者の名が読み上げられ、細田佳央太は表情豊かに驚くが、関水渚は台本に目を落としたまま硬直状態。
「そこの主演とヒロインです」
と念押しのように告げられる。関水は涙しながら「不安です」と声を絞り出すのだが、その涙をぬぐう手が拳! 私はそこで彼女のド根性を見て取った。
ちなみに主役の町田くんを演じる細田佳央太は「噛み付いていくしかない」とうっすら笑って答えており、男版北島マヤ登場だと思った。彼に対するその印象はいまだ変わっていない。