2021年、悪性リンパ腫のステージⅢの検査結果を受けた夢枕獏さん。抗がん剤治療を行うため、「陰陽師」の連載を休んだ中、「入院中に作った俳句のことを書かせて下さい」と始まったのが『仰天・俳句噺』です。刊行を記念して、40年来の友人で、膀胱がんを早期発見して治療した北方謙三さんとの対談をお届けします。(全3回の2回目。続きを読む)
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「杖はもうファッションだな」
北方 (患部に入れた抗がん剤を)出しちゃった(笑)。1日入れておくと言われていたのに、3時間くらいでもう駄目だった。
夢枕 今も杖を横に置いてますけど、お洒落のため? それともまだ必要だからですか?
北方 周囲が腰の手術のお見舞いにくれたんだけど、もうファッションだな。杖をもって街を歩くと、なぜかみんな親切にしてくれるし(笑)。
夢枕 僕はそんな甘えで杖は持たないですよ(笑)。でも、がんになった時は自分史上最強で、いろんな我がままをかみさんが聞いてくれましたね。娘も心配してくれたし。
がんは早期発見が第一
北方 俺は自分で「死ぬんだぞ」って大騒ぎしたから、家族もさぞかし心配してくれると思ったら、娘たちも家内もお医者さんのところで話を聞いていて、「死にもしないくせに」って馬鹿にされた。
夢枕 僕も効いたのは最初だけで2か月くらいで効かなくなった。
北方 俺の場合はなぜ大騒ぎをしたかというと、膀胱がんと言われて死んだ友達――松田優作なんだけど、彼のことがパッと頭に浮かんで、自分も死ぬんだと思ったわけだ。俺たちの世代は「がん」という言葉が割と死に直結しているよな。
夢枕 そうですよ。小説でも映画でも誰かががんになったら、「この人は死にます」っていう旗(フラグ)が立ったという意味で、治ったり元気になったら反則です。でも今は早期発見が第一。