長澤は、女優にとって20代の終わりから30代にかけては役がつかなくなる年頃だと聞かされていたという。だが、いざその年代に入ってからも仕事が絶えることはなく、次から次へと新たな役に取り組んでいる。『MOTHER』のようなシリアスな作品に出演する一方で、ドラマから映画化された『コンフィデンスマンJP』シリーズ(2018年~)などではコメディエンヌぶりも発揮している。
天才的な詐欺師役で主演する『コンフィデンスマンJP』にしてもそうだが、最近ヒットした出演作には、チームワークが前面に押し出されたものが目立つ。冒頭にあげた『マスカレード』シリーズでは木村拓哉と、先月公開された映画『シン・ウルトラマン』でも斎藤工とバディを組み、次々と起こるピンチに立ち向かう。
現在放送中の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』ではナレーションを務める。出演にあたって、脚本の三谷幸喜からは「登場人物に寄り添いつつ、視聴者にささやくように、こそこそ声で語りかけてほしい」と注文されたという(※9)。残虐な事件もあいつぐ同作にあって、長澤の語りは、登場人物たちをいつくしむような、それでいてどこか突き放すようなところもある独自の語りを創出しつつある。
「『素の自分』に近いのが“おばさん”」
かつての長澤はすごく醒めた子供で、日常に期待もしていなかったが、このままじゃつまらないと思い、自分を変えたら日常が楽しくなったという。《今は普通の生活がとても大切ですね。普通のことが一番楽しいし、勉強になるし、豊かです》とは、30歳のときのインタビューでの発言だ(※10)。木村拓哉が彼女に感じた母性も、そんなふうに普通の生活を大切にしていることに由来するのかもしれない。
同時期の別の雑誌でのインタビューでは、《この仕事は年齢制限がないですから、30歳は30歳なりの、40歳は40歳なりの役柄ができる。そういう意味でも楽しみがあるし、今は早く、いわゆる“おばさん”を演じてみたい》と明かし、次のようにその理由を説明していた(※11)。
《私は自分の性格を特に女らしいとは思わないし、むしろ男っぽいところがあると思っているくらいなんですけど、一番『素の自分』に近いのが“おばさん”なんです(笑)。だから自然に“おばさん”を演じることができたら、もっと自由にお芝居と向き合っていくことができるんじゃないかって》
“おばさん”を演じるといえば、ここ数年、長澤が毎夏出演している金鳥のCMが思い出される。このシリーズでは、静岡出身の彼女がなぜか関西弁でセリフを言うミスマッチぶりが印象に残るが、相手役の男性にグイグイ迫ったり茶化したりするキャラクターは、案外、素に近いのかもしれない。彼女が目指す“おばさん”像も、この延長線上にありそうだ。ここへさらに母性をプラスしたら、一体どんな演技が生まれるのか。想像するにつけ楽しみである。
※1 『ザテレビジョン』2021年10月1日号
※2 『LEE』2020年7月7日配信
※3 『an・an』2020年5月27日号
※4 『MORE』2020年7月3日配信
※5 『婦人公論』2012年7月22日号
※6 長澤まさみ『ビューティフルマインド』(宝島社、2021年)
※7 『SWITCH』2017年9月号
※8 『キネマ旬報』2018年1月上旬号
※9 『ステラ』2022年1月21日号
※10 『GALAC』2018年2月号
※11 『ケトル』VOL.42(2018年4月)