もうひとつのターミナル「近鉄奈良」
さらに歴史的に見ると、三条通りはもっと大きな役割があった。奈良と大阪を結ぶ暗越奈良街道。生駒山地を暗峠で越え、ほとんど一直線に奈良と大阪のど真ん中同士を連絡する。近代以降、いくつもの鉄道路線や道路が生駒山地を貫いて奈良と大阪を結ぶようになったが、いわばその元祖が三条通りなのである。
今回歩いた奈良駅から奈良公園までは、その重要街道の東端。江戸時代の大坂人も、きっとこの道を歩いて奈良にやってきたのだろうと思うと、なんとなく感慨深くなってくるような気がする。
そしてこの三条通りを背骨として広がる奈良の市街地の一角に堂々と鎮座しているのが、もうひとつのターミナル・近鉄奈良駅だ。
近鉄奈良駅は三条通りから東向商店街を抜けた先、大宮通り(登大路とも)の角にある。立派な駅ビルと駅前広場を持ち、地下のホームからは京都や大阪に向かって特急列車も発着する文字通りのターミナル。JR奈良駅と比べてお客の数で勝っているから、事実上奈良の玄関口、奈良の鉄道の顔は近鉄奈良駅なのだろう。
近鉄奈良駅の前にはたくさんの修学旅行生がたむろしていた。その賑わいにコロナ時代の終わりが近づいているのを感じつつ、ふと、どうして彼ら彼女らはおしなべて頭に鹿のかぶり物をのっけているのだろうかと気になってくる。
思えば、ディズニーランドに行った人たちも頭にミッキーをのっけている。退屈な日常から離れて非日常の世界にやってくると、頭に何かのっけたくなるのは性なのかもしれない。
クルマメインの大通りと「鹿飛び出し注意」の標識
それはさておき、せっかくなので近鉄奈良駅前を東西に通る大宮通りも少し歩いてみよう。
東に向かえば、三条通りと同じく興福寺や奈良公園に向かう。どちらかというと徒歩者がメインの三条通りとは違い、片側3車線、計6車線というクルマメインの大通り。三条通りのクルマ通りが少ないのは、すぐ北に大宮通りがあるからなのだろう。
東に向かって坂道を少し登ってまた下る。北側には奈良地方裁判所や奈良県庁といった官公庁が並び、南側は興福寺の境内と奈良公園だ。このあたりももちろん鹿さんの活躍ゾーンで、「鹿飛び出し注意」の標識があって、実際に鹿さんたちがビートルズよろしく縦長の隊列で大宮通りを渡ったりしている。
観光客や修学旅行生は「うわぁ、鹿がいるよ!」などとはしゃいで写真を撮っているが、奈良に鹿がいるのはあたりまえなのだからどうしてそんなにはしゃぐのだと思う。思いつつ、こちらも写真を撮っているのだから結局似たようなものである。