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「期待に応えようと無理をして心身を壊す人も多く見てきた」

 そこで千葉さんが描こうと決めたのは〈英雄〉対〈巨悪〉。それまで公務員として働いてきた経験が、この構図に反映されているという。

「『戴天』における英雄とは、自分を大切にできる存在です。自分の意思を尊重する姿勢から、おのずと他者を思いやれるようになるはず。胸を張る英雄に自己犠牲はいらないと思うんです」

 就職氷河期世代の千葉さんは、仕事を通し、期待に応えようと無理をして心身を壊す人も多く見てきた。

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「滅私奉公は美学として日本人に好まれやすい反面、危険な考え方でもあります。群れの中で権威に従順であろうとする姿勢は、大事なものを見えにくくしてしまいますから――個々の意思がかき消されることは、人間としての尊厳を奪われることと同じです。知らぬ間に、自分がその状況にある場合もあって、恐ろしいですよね」 

 唐の時代を生きた二人の若者は、悩み苦しみながらも、権威に臆せず志を通そうと奮闘する。その姿は時代を超え、今を生きる読者に守るべきものとは何か、問いかけている。

(初出:オール讀物2022年6月号)

ちばともこ 1979年茨城県生まれ。筑波大学日本語・日本文化学類卒業。2020年『震雷の人』(文春文庫から六月に刊行予定)で第27回松本清張賞を受賞し、デビュー。

オール讀物2022年6月号

 

文藝春秋

2022年5月20日 発売

戴天

千葉 ともこ

文藝春秋

2022年5月10日 発売