理不尽な説教と冷え切ったチャーハン
「昼の時間帯でした。その日も幼い歩夢くんがずっと丹羽に怒られていたんです。丹羽と石井がテーブル席の上座に座り、丹羽の正面に歩夢くん、その隣に柿本といった位置関係。内容までは分からないのですが、丹羽は険しい顔でネチネチと何か説教を続けていました。女性の2人は何も口を挟まず、大人の3人は先に食事を平らげていました」
この時点で、店主は4人の素性を知らない。同年代の丹羽と柿本が歩夢くんの両親、歳の離れた石井は祖母だと思っていた。
4人が揃った2度目の来店でも、また同じことが繰り返された。その日は座敷席。歩夢くんは正座させられ、丹羽の威圧に涙もこぼさずひたすら耐えていたという。理不尽な説教は、昼の営業時間が終わる14時頃まで、1時間以上も続いた。気が済んだのか、丹羽が店の外へ煙草を吸いに出ると、歩夢くんはようやく冷え切ったチャーハンにありつけた。
「4人はいつも丹羽が運転する青い群馬ナンバーの車で来店していました。何度目だったか、店を出た後も車の横で、立ったまま丹羽が歩夢くんにしつこく説教していました」(同前)
そして最後となる3度目の来店が、冒頭の場面である。見かねた店主は、やはり14時を過ぎた4人の帰り際、ある行動に出た。
「お孫さん、お利口さんですね」
毎回会計を担当している石井にそれとなく声をかける。
「私の孫じゃないんですよ。私と彼(丹羽)が夫婦で、この人(柿本)はシングルマザー。仲のいい友達なんです」
石井は快活な声で答えたが、4人の異常な関係に店主は驚愕した。母子はこの高圧的な男の支配下におかれているのではないか。そういえば、いつも冴えない顔をした柿本が声を発するところを見たことがない。
「お名前、何ていうの?」
咄嗟に店主は、歩夢くんに名前と年齢、保育園を尋ねてみた。笑顔もなくおどおどと答える5歳児。目に見える痣や傷があったわけではないが、年相応の溌溂さは微塵も感じられなかった。
「子供が虐待されている可能性があります」
店主は日を置かず、保育園と市に通報し、自分が見たありのままを伝えた。
ところが――。