練習だと痛いパンチをもらったことはありますけど…
阿川 たった1日で5キロも戻しちゃうの!?
井上 計量時は脱水状態に近いので、水分補給するだけでも、体重は簡単に戻ります。あとは炭水化物ですね。身体に優しい、おかゆから、うどん、餅と少しずつ変えて。コンドミニアムには日本の食材や炊飯器も持ち込んでいたので、そこで料理してました。
阿川 へえー。試合前は当然、ロドリゲス選手の研究もするわけですよね?
井上 そうですね。ただ、彼は自分がアマチュアボクシングをやっていたとき、世界ユース選手権という国際大会に1緒に出ていたんですよ。その大会では、ロドリゲス選手がメダルを獲得していましたし、アマチュアでは自分より実績がありました。だから強いのは当然分かってましたし、映像で研究しても、いままでの選手とはちょっと違うなと感じていました。
阿川 具体的になにが違うんですか?
井上 反応が速いし、好戦的に前に出てくるけども、相手がいっぱいいっぱいになって手を出してくるところに上手くカウンターを合わせられる。プロになってからの戦績も19戦無敗ですし、アマチュア出身なのでテクニックが凄くあるという印象でした。
阿川 アマチュア出身だとテクニックがあるんですか?
井上 アマチュアは、ルールが厳しいし、3分3ラウンドという短い時間で相手より優勢に立たなくちゃいけないので、テクニックは磨かれますね。
阿川 実際に試合が始まったとき、1ラウンド目は、少し押されているように見えたんですが、いかがでした?
井上 テレビで観ているとそう映ったかもしれないですけど、クリーンヒットはもらってないし、紙一重のところで対応できているなと思いました。1ラウンド目に2発、左フックを当てられたんですが、こちらも2発以上は返さないとポイントを取られるかなと心配したくらいで。
阿川 あっ、そんな余裕(笑)。パンチが当たって痛くないんですか?
井上 それはなかったです。練習だと痛いパンチをもらったことはありますけど、まだ試合では一度もなくて。あと、見えているパンチってそんなに効かないんです。今回もらったときも見えていたので、痛いというよりはむしろ燃えてくる感じになりました(笑)。
阿川 なんじゃ、そりゃ! 井上選手の試合映像を観ていると、目をつぶることがぜんぜんないように見えるんですけど……。
井上 ボクサーは皆、目を開けていると思いますよ。パンチを当てられた瞬間も、相手の身体のほうを見て、次の動きを予測してますし。
阿川 ええーっ!! 当たったときも!? ちなみに相手のどのあたりを見るようにしてるんですか?
井上 目を見ているときもあれば、全体をボヤ~ッと見ているときもあって、自分ではよく分からないんです。でも、だいたい相手の肩は視界に入れていますね。パンチを出してくるときはだいたい肩が動くので。
阿川 肩かあ……。で、1ラウンド目が終わったときはどう思われました?
井上 長引くかもしれないけど、技術的にやられることはないと思いました。
阿川 えー、なんで長引きそうだと思ったんですか? だって、実際は2ラウンド目で3度ダウンを奪ってましたよ!(笑)
井上 最初に奪ったダウンも、お互いほぼ同時にパンチを放って、たまたま自分のほうが先に入った感じでした。向こうのパンチが先に当たっていたら倒れたかもしれません。でも、ボクシングってその数センチ、数ミリのタイミングですべてが変わるので。
阿川 どうして井上選手はそのわずかなタイミングで相手より上回ることができるんですか?
井上 瞬間の判断力というか、「いまだ!」と思ったときに行ける度胸はあるほうだと思っています。
阿川 ある解説者も、「井上選手の凄さの一つは思いきり」と言ってました。
井上 他の選手の試合を観ていても、「ここで行かないと」というときに、行けないボクサーが多い気がします。なにかを考えて躊躇してるんだと思うんですけれども……。それは気持ちの問題かもしれません。