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〈再戦で圧勝〉井上尚弥が語っていた「ドネアとは会えばすごく仲いい」「対戦相手を憎たらしいと思ったことはない」

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 6月7日、さいたまスーパーアリーナで行われたボクシング世界バンタム級3団体統一戦。2年7カ月ぶりにノニト・ドネアと対戦したWBAスーパー&IBF世界バンタム級王者の井上尚弥が2回TKO勝ちし、日本人初の王座統一に成功した。

 1ラウンド終了間際に右のクロスカウンターでダウンを取り、早々にドネアを圧倒した井上。強さの秘密は一体何なのか。「週刊文春」の連載「阿川佐和子のこの人に会いたい」で語った記事を公開する。(初出:週刊文春 2018年8月15・22日号 年齢・肩書き等は公開時のまま)

〈全2回の2回目。前編・〈ドネア戦圧勝〉「試合で痛いパンチをもらったことは一度もない」井上尚弥が明かしたボクシング、父、“強さの自覚”…… を読む〉

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たぶんボディーは誰でも倒れる唯一のパンチだと思う。

©文藝春秋

阿川 プロになってからも、試合後に「いやあ、自分は未熟でした」って感じで、いっつも超謙虚なのね。チャンピオンがそれ言うか!? と思ったんですけれども(笑)。

井上 いや、やっぱり高校時代の父の言葉があるから、いまもまだ自分に納得ができないところがあって……。

阿川 いまも!?

井上 はい。勝ったことで我を忘れて喜ぶことができたのは、いままで3、4試合くらいじゃないですかね。

阿川 たったそれだけ? たしか試合中に足がつりそうになってて、長期戦は無理だと思ってラッシュをかけて倒した試合では、勝った後、ものすごく嬉しそうにリングの真ん中で大の字になって寝そべってましたよね。

井上 ああ、それは2014年に世界王者に初挑戦したエルナンデス戦ですね。あのときは中盤から足がつりかけて、世界は甘くないなと思いました。倒したのは6ラウンドなんですが、次のラウンドに進んじゃうと足の限界が来そうだったので、倒しにいったんです。その前までに相手はダメージが蓄積していたのでなんとかなりました。

阿川 試合中に自分のパンチが効いたぞとかって分かるものなんですか?

井上 分かりますね。効いたパンチが入ったか、もしくはパンチは入ったけどダメージはそんなにないとか。向こうの表情と目を見ていればなんとなく。

阿川 井上選手はボディーで倒す試合も多いと思いますが、顔を狙うのとでは違いはあります?

井上 ボディーに関しては、たぶん誰でも倒れる唯一のパンチだと思います。いくら腹筋を鍛えていても、レバーブローというのはもう……。

阿川 レバーって、肝臓を狙うってこと?

井上 ええ。打つほうから見れば左のパンチになります。うまく入れば息も出来なくなるし、まず耐えられません。ただ、先ほどもお話ししたように、来ると思っていたら我慢できるので、いかに相手に「来るぞ」と思わせないタイミングで入れるかですね。あと、息を吸ったタイミングも効きます。

阿川 そんな細かいとこまで瞬時に考えてるの? スゲ~。じゃあ、顔より倒しやすい?

井上 上でもいいパンチが当たれば倒せるんですが、顔はパンチに慣れると我慢できるし、回復もするんです。レバーの場合、一度レバーブローでダウンを奪ったら、立ち上がってきても、最初の半分の力のパンチが当たればもう立ち上がれないでしょうね。