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会場のお客さんの声で、スイッチが入ったこともあります。

阿川 井上選手は相手のガードの上からパンチを打っても効いているように見えるのね。あれはどうして?

井上 たとえば、相手がグローブをおでこにつけている状態だと、その上から打てば、伝わるダメージはガードしていない状態で当たるのとおそらく一緒なんですよ。相手のグローブが頭から離れていると、衝撃は逃げるんですけれども。

©文藝春秋

阿川 じゃあ、グローブが頭にくっついているときに、その上から打つ?

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井上 そのタイミングを狙ったことはありますね。

阿川 そんなことまで考えて……。あと、プロになって7年で18試合を戦ってらっしゃいますけれど、初期の頃と比べると、ここ数戦はキレが違うというか、ボクシングを知らない私が見ても、動きがさらに速くなったように見えるんですが、ご自身ではいかがですか?

井上 自分でもすごく感じます。最初の頃と違うのは場慣れでしょうね。

阿川 そんな軽く言わないでください(笑)。場慣れだけの問題か!?

井上 いや、練習でやっていることを同じように試合で出すのが1番難しいんです。最初の頃は緊張もしてやりたいこともなかなか出来ませんでした。

阿川 でもアマチュアでは何十試合も経験されてきたわけでしょ?

井上 アマチュアとプロとでは全然感覚が違いますね。ヘッドギアの有無など、ルールの違いもありますけど、プロはお客さんに対して、すごい技術だったり、面白い試合を見せなければいけない。一度、試合中に拳を怪我してしまって、判定決着でもいいかなと思ってしまったんですね。そんなとき、会場のお客さんから「倒すところを観に来たんだぞ!」という声が聞こえて、スイッチが入ったこともあります。

阿川 お客さんの声を聞き入れることもあるの!? それこそ、セコンドが言ってるのか、お客さんが言ってるのか区別つかなくなることはないんですか?

井上 それはないですね。試合中でも声は聞き分けています。プロなので、野次が飛ぶこともあって、その野次に反応して焦っちゃって展開が変わる選手もいるんですけど……。

阿川 井上選手は野次に左右はされない?

井上 そもそも、野次が飛ぶことが少ないです。野次が来る前に試合を終わらせることが多いので(笑)。

阿川 アハハ、失礼いたしました。実際にここ3試合で、合計4ラウンドしか費やしてないんですもんね。