起訴が難しい「虐待死」事案だが、わずか3ヶ月でスピード逮捕
起訴や公判維持が難しいことが知られている、虐待死事案。家庭内で行われるため、証拠が限られ、起訴してそれなりの罪を追わせるだけの材料集めに時間がかかり、数年経ってから逮捕に至るケースも珍しくない。
だが、警察は怒り心頭に発していたようで、雄大と優里は、結愛の死からわずか3ヶ月でスピード逮捕される。ばかりか虐待死の多くは、いずれも上限は懲役20年の保護責任者遺棄致死罪か傷害致死罪が適用され、無期や死刑に至る殺人罪が適用されるのは稀であるため、あえて結愛のメモを公開、世間の怒りを虐待に向けさせ公判を維持して重罪を科す意図を、僕は感じた。前出の記者によれば、メモを読み上げたとき、捜査一課長は「目に涙を溜めていた」という。
日本は虐待死の刑が圧倒的に軽いと諸外国から指摘されていたことからして、確かに警察は思うところがあったようだ。これまでの判例では懲役4年~7年が相場である。苦難の末に白日の下にさらした少女の死を決して無駄にしてはいけない。目指す虐待死の厳罰化は、この事件が引き金になったのである。
築事件現場は、築40年・間取り2Kの高級住宅街にあるアパート
警察のプロパガンダとでも言うべき発表を受け、マスコミによる取材合戦はレク直後から否応なしに始まった。特に各社は、事件現場となった3階建てのアパートがある、東京都目黒区東が丘の取材に力を入れる。僕も事件発生当時、都内でも地価が高いエリアを走る有数の路線である東急東横線と東急田園都市線のちょうど真ん中あたりに位置する現場周辺をくまなく歩いた。どの駅から向かおうとも、徒歩では10分以上かかる場所だが、駒沢公園に隣接し瀟洒(しょうしゃ)な住宅が立ち並ぶ高級住宅街だ。
注文住宅らしい建物があちこちに林立し、住宅のガレージには高級車が並んでいる。一方、マスコミの人垣に加わり事件現場となったアパートを見上げると、息を呑まずにはいられなかった。築40年、間取り2K。にもかかわらず家賃は月8万円。他の地域ならもっと良い物件に暮らせるのでは。建物は周囲から明らかに浮いていた。
雄大がなぜ見栄まで張り、東が丘にこだわったのか、事情を知らない当時の僕には不思議だったが、雄大と優里がこの地にたどりつくまでの軌跡を追うと、その理由がぼんやり見えてきた。