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「やらせてちょうだい」 缶チューハイ片手に男が踊り子に声をかけていた横浜最後のストリップ劇場「黄金劇場」の風景

『裏横浜 グレーな世界とその痕跡』より#2

2022/06/14

genre : ライフ, 歴史, 社会

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文豪は剥き出しの女性の姿を見て、女を研究した

「黄金劇場の存在はいつから知ってたんですか?」

「生まれも育ちも、ここからそう遠くないところだからね。黄金町っていったら、今じゃ面影はないけどさ。すごい街だったんですよ。黒澤明の『天国と地獄』という映画があったでしょう。それに当時の黄金町が出てくるけど、本当にあのまま。ヒロポンの巣窟だった。ヒロポンでやられた人が道端で寝転んでいるのなんて特別なことじゃなかったんですよ。そんな光景を見てきたから、あんまり近づきたくない場所だった。ストリップ劇場は、日の出町、浦舟町、都橋、井土ヶ谷、野毛、曙町にもあったんだよ。それがいつのまにか、黄金町と日の出町だけになっちゃった」

「いわば、黄金町は反面教師のような存在だったんですね」

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「そうだね。35年間真面目にサラリーマンをやっている時は、近づこうなんて思わなかったからね。それが病気してからだよね、足を運ぼうなんて気がおきたのはさ」

「病気以外に劇場に通うことになった理由はありますか?」

「こんなことを言ったら、ちょっと気障っぽくて、格好つけすぎだよと言われるかもしれないけどさ、昔は文学を志す人々はみんなストリップの楽屋に詰めたでしょう。その中で有名なのは永井荷風だよね。彼らは剥き出しの女の人の姿を見て、女を研究したんですよ。もちろん男だからさ、スケベ心もあっただろうけどね。僕もそれにあやかってじゃないけど、それがストリップに通う理由だね。ストリップにしかない剥き出しの女の温かさ。今から女を研究しても遅いけど、女はこういうものだってわかってから死にたいよ」

 黄金劇場でステージをつとめる踊り子たちに関してもガンジイならではの意見を持っていた。

「この劇場には家族的な優しさがある。ここは踊り子との距離が近い。芸ができるのはさ、高齢の踊り子さんだよね。神業だなって思うもん。あの踊り子さん俺のこと好きなんじゃないかって、そんなムードを作るから、とりこになってしまうんだよね。若い子っていうのは、若さでカバーできちゃうでしょ。ちょっとぐらい踊りが下手だって肉体が若いから、そっちに目がいっちゃうけど、高齢になるとそうはいかないよね。いかに芸で見せるかが大事になるんだよ。でもさ、劇場で好きな踊り子を公言するのはタブーだよ。心の中では好みがあっても、誰をも平等に見ないといけない」

「好きな踊り子さんがいると通う頻度がふえるんじゃないですか?」

 その質問に、ちょっと間を置いてから、にやりとしながら口を開いた。

「そうなんだよね。あなたに好きな踊り子さんの名前は言わないけど、10日間の興行の間、初日と中日、それと楽日の3日間は通っているんだ」