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「薬剤師時代に過労で顔面神経麻痺になって…」仕事を辞めてライターに転身した30歳女性が3年間も“住所を持たなかった”ワケ

『トカイナカに生きる』より #1

2022/06/17

source : 文春新書

genre : ライフ, ライフスタイル, SDGs, 社会

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どうやって自分でビジネスを“プロモート”しているのか?

 取材で出会ったとき、彼女は見事な「パラレルワーカー」だった。

「イナフリを出てからは薬剤師の現場には戻ってないです。薬剤師はとても責任のある仕事ですし、私は一度に多くのことをできるタイプじゃないので、今は新しく学んだことを自分のものにしていく修行期間のように思っています。また、せっかくWebのスキルを身につけたんだから、短時間で収入がアップするように仕事を組み立てようと思いました。まずはWebで医療ライターをやって、Webデザインも勉強して仕事を掛け合わせたり、イナフリのスタッフとして統括とか講師とかもやり、編集の経験も積んでステップアップを図りました。さらに自分で企画している仕事もあるんです」

 フリーランスとしてもいくつかの仕事を掛け持ちする。正社員時代のように毎月25日にまとまったお金が入ってくるということはないが、その分自分でスケジュールを管理して「得意」を使った仕事を組み合わせられる。誰かに追いたてられながら働くことはない。

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 松岡は、その後もう1つ仕事の柱を持った。コロナ禍をきっかけにSNSからの医療者による相談が増えたことにより、オンラインで「医療ライターのはじめかた」と題した養成講座を始めたのだ。かつて自分がイナフリでライティングや仕事の取り方を学んだように、医療知識や経験がある人に、Web上でのライティングや仕事の取り方のノウハウを教える講座だ。

写真はイメージです ©iStock.com

「つまり医療経験・知識×Webライティングという掛け算で仕事を獲得するスキルを身につけて、複業や在宅ワークがでも医療資格を活かす選択肢を増やそうという講座です。このスキルがアップして生活できるようになれば、薬局や病院に行かないと働けないという拘束時間から解放されるし、自分の知識や経験をライティングという形で発揮できる。クライアントは医療系の会社とか病院とか製薬会社とか。医療資格をもっている人ならば仕事も受注しやすいです」

 この講座では3カ月間かけてライティングや営業方法、薬機法についての基礎を教える。修了後も受講生たちとコミュニケーションを取れる場所も整えている。

 2022年3月には、第10期生の講座が行われていた。事業は順調に育っているのだ。

 講座を紹介するツイッターには、「医療の資格を活かした複業を紹介」と書かれ、「今回から、薬機法ライターとして活躍する第1回受講生が講座運営のメンバーとなりました。先に進む先輩として、相談に乗ってくださいます」という投稿もある。