都心から1~1.5時間ほど離れたエリアを「トカイナカ」と呼び始めたのは、1985年から所沢と都心の二拠点生活を実践している経済評論家の森永卓郎氏だ。そして2022年現在、コロナ禍を機に始まったリモートワークやワーケーションの流れを受け、埼玉、千葉、神奈川、栃木、山梨などの「トカイナカ」に注目が集まっている。
ここでは、そんな「トカイナカ」の生活スタイルや魅力を綴った神山典士氏の著書『トカイナカに生きる』(文春新書)から一部を抜粋。埼玉県ときがわ町で不動産業を展開している女性が、二拠点生活希望者に対して行っている取り組みを紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く)
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「山のおばちゃん」と呼ばれて親しまれる女性
「都会に一番近い田舎」の埼玉県ときがわ町には、比企起業塾(当時)の1期生で不動産業を展開する尾上美保子がいる。彼女は、移住者や不動産周りの関係者からは、いつからか「山のおばちゃん」と呼ばれ親しまれている。彼女なくして、ときがわ町の空き家古民家と移住二拠点生活希望者のマッチングはありえない。
地元民に対しては、町の「集落支援員」として、町内の空き家物件の相談にのる。移住二拠点生活希望者たちには、町が所有するお試し移住施設「やまんなか」の管理人として、そのオーダーを受け付け世話をする。
日頃から親しみやすい笑顔を絶やさずに、彼女の身体全体からは頼りがいのあるオーラが滲み出ている。町の面積の7割を森林が占める「やまんなか=ときがわ町」にあって、移住二拠点生活希望者の情報と、空き家不動産情報を一手に引き受けていることから、このニックネームになったのだ。
とはいえ、尾上はこの町で不動産業を開業しようとして関根雅泰が運営する「比企起業塾」を受講したわけではない。そもそもは受講する翌年の2018年に「民泊新法」が施行され、民泊事業が認められるらしいとききつけて、それを事業化できないかと考えていた。こう振り返る。