「なによりも優先するのは……」
「なによりも優先するのは、どうしてもときがわ町に移住したいと言う人です。いい物件があったらどこでもいい、比企郡内ならどこでもいいというような人は、よその不動産屋さんにいってもらっていい。どうしてもときがわ町でないとダメ。その理由はかくかくしかじかで……、とその理由に私が納得できた人を最優先して、空き家古民家を紹介するようにしています」
同様に、家主の事情も尾上は熟知している。A家はおばあちゃんが決定権を持っている。おばあちゃんはあの家のここに執着している。だからそれを理解してくれる人でないと貸せない、売れない。B家は長男が都会に出ている。兄弟は複数人。だから全員を説得しないとダメ。C家にはお仏壇がある。まずはご先祖様を大切に供養しないとダメ、等々。
尾上は空き家情報をネットには出さないし出せない。出せば他の業者も入ってくるし、誰が買いつけにくるかもわからない。
「ネットでは細かい条件を伝えきれません。それに提示した金額でオーケーとなっても、その買い主が極端に宗教に熱心だとか日本の生活習慣を全く知らない外国人だとか、あとからわかって大家さんが嫌がっても、それを理由には断れないじゃないですか。だからネットにはなるべく出さないんです」
では移住・二拠点生活希望者はどうやってときがわ町の物件情報に辿り着くのだろう?
「私のところに辿り着けた人だけが物件と出会える─、というと少し大げさですが、不動産とはご縁のものだから、昔からそういうものだったと思うんです」