鉄道の、駅にとっての“BOSS”といえば駅長さんである。

「国境の長いトンネルを~」でおなじみの川端康成『雪国』でも、冒頭の例の下りの直後に葉子が「駅長さあん、駅長さあん」と呼ぶシーンが出てくる。中島みゆきの『ホームにて』でも、最終に乗れる人は急ぎなさいとやさしい声の駅長が登場する。映画『鉄道員(ぽっぽや)』の高倉健は、消えゆくローカル駅の駅長さんだ。

 だからなんだと言われればそれまでだが、このように駅長さんは駅の顔として、あらゆる作品にも印象的な役割を与えられる存在なのだ。駅長さん、なんとなくカッコいい響きである。

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 ただ、この『雪国』や『ホームにて』、『鉄道員』などに出てくる駅長さんは、明示されているか否かは別にして、国鉄の駅長さんだ。確かに国鉄の駅長さんは武骨なイメージもあっていかにも“鉄道の男”といったイメージ。

 けれど、鉄道は何も国鉄・JRばかりではない。毎日の通勤通学に欠かせない私鉄にだって、駅長さんはいるはずなのである。

 そこで西武鉄道さん。もちろん駅長さん、いるんですよね……。

 するといただいたご返事は、「管区長ならいますよ」。そう、西武鉄道をはじめとする私鉄各社では、各駅ごとの駅長さんではなく、複数の駅をまとめて管理する管区長さんがいるのだ。いったい、管区長とはどんなお仕事なのだろうか。

西武鉄道本川越駅管区で管区長(いわゆる駅長)を務める今成唯依さん

「管区長」ってなに?

「管区長は、管区運営を担う総責任者ですね。

 私の場合は本川越駅管区長として、西武新宿線の航空公園駅から本川越駅までの7駅を預かっていまして、駅で働く職員と安全輸送をどのように守り、お客さまに快適にご利用いただくのか、駅に訪れたお客さまをどうお迎えするのか、イベント施策などをどうやっていくのか、などを日々考え、実行しています。

 ……もう少しわかりやすくいえば、いわゆる駅長さんが西武鉄道でいうところの管区長だと思っていただいて大丈夫です」

 教えてくれたのは、西武鉄道本川越駅管区で管区長を務める今成唯依さん。西武鉄道では、91の駅を複数の管区に分けていわばエリア制のような形で日々の業務を行っている。管区長は担当管区すべての駅長のような立場、ということだ。

 今成さんが預かる本川越駅管区には89名の職員が所属している。乗務員が所属する部署には200名を超えるような大所帯もあるというが、駅業務を担う管区はだいたい100名前後。そしてその職員たちが、管区内の各駅で“駅員さん”として働いている。

ここで路線図。今成さんが預かるのは本川越駅管区だ

「本川越駅管区内でいうと、新所沢・狭山市・本川越の3駅が規模が大きい駅です。1日あたり働いている職員は、たとえば新所沢には管理職を除いて5人。本川越には管理職を除いて4人の駅係員がいて、交代で休憩をしながら働いています。規模の小さな駅では2人でその駅を守っているということもありますね」(今成さん)