初めての殺人で感じたオーガズム
新しい生活をスタートさせたゲイシーは、1971年に建設会社を設立する。
部屋のリフォームからコンクリートの流し込み作業、さらには造園業まで精力的に仕事をこなし、業績を順調に伸ばしていった。
ただし、性的嗜好は変わらない。彼が雇用する作業員たちは皆、自分好みの若い男性ばかりだった。
そして、会社の設立から1年も経たないうちに、ゲイシーはまたしても一線を越えてしまう。
1972年1月。母親や親戚とニューイヤーパーティを過ごした後、ゲイシーは一人で車を走らせていた。
その途中、バスターミナルのベンチに少年が座り込んでいるのを見つける。彼は名をティモシー・ジャック・マッコイと言い、新年の休みを利用して一人旅をしている最中だという。
「だったら、シカゴの観光ツアーへ行かないか? 今晩はうちに泊まればいいよ。明日の朝、バス停まで送っていってあげるからさ」
ゲイシーは満面の笑みでそう言って、ティモシーを車に乗せた――。
翌朝、人の気配を感じて目を覚ましたゲイシーは、寝室のドアのそばに、ナイフを持って立ち尽くすティモシーの姿を見て、ベッドから跳ね起きた。
身の危険を感じたゲイシーに対しティモシーはナイフをこちらに振り上げてきた。その切っ先が自分の腕をかすめた瞬間、ゲイシーは“やらなければやられる……!”と危機感を強めた。
とっさにティモシーの頭を摑み、無我夢中で壁に投げつける。深刻なダメージを受けたティモシーは、そのままよろけてうずくまった。
ゲイシーは必死に彼の腹を蹴り上げ、落ちていたナイフで何度も彼の体を刺す。
やがてティモシーの目から光が消え、喉の奥からボコボコと溺れるような音を鳴らし、全身の力を失っていった。
その瞬間、これまで感じたことのないオーガズムがゲイシーの脳裏を駆け巡った。極上の快感。この感情は何だろう?
ぜえぜえと息を乱しながら、血まみれの両手を洗い落とそうとキッチンに入ったゲイシーは、そこで部屋に充満する美味しそうな香りに気がついた。
食卓には2人分の食器が並べられ、その上には目玉焼きとベーコンが載っている。
そう――ティモシーは朝ごはんの支度ができたことを知らせるため寝室にやってきただけだったのだ。ナイフも振り上げたのではなく、危害を加える意志はないという意味で、両手を上げようとしただけなのだ。
しかし、悔やんでも後の祭り。ティモシーの命は返ってはこない。
それよりも、寝室の遺体をどうにかしなければならない。ゲイシーはすぐに倉庫からコンクリートを作るための資材を運び込み、床下に通じる扉から遺体を入れた。そしてその上からコンクリートを流し込むと、ティモシーという少年の存在をこの世から完全に消し去ってしまったのだった。
あとに残ったのは、ティモシーの喉元から漏れ出したボコボコという音と、それに伴うとてつもない快感の残滓。これが、怪物が目覚めた瞬間だったのかもしれない。