「子どものいじめもそうですが、(学校での事件は)認知してすぐ対応をしないと、わからなくなってしまいます」

 学校での子ども同士のいじめや教師による不適切指導が起きたときに、「隠蔽」を疑われるケースが相次ぐ。ただ、その被害者は子どもだけではない。教師が被害を受けた場合にも、同様の対応が取られることを示す事件があった。

同僚からの暴行、校長の隠蔽行為でうつ病を発症

 冒頭の発言は宮城県大和町の中学校教諭・井上陽平さん(仮名・休職中)が筆者の取材に答えたもの。同僚のB教諭から暴行を受け、さらに当時の校長が事態を隠蔽しようとした言葉や態度によってうつ病を発症したとして、同県と大和町に対し、国家賠償法にもとづく損害賠償訴訟を起こした。

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 仙台地裁は、井上さんの訴えをほぼ認めた上で、2022年3月、和解が成立した。県と町には2860万円の解決金の支払いを命じた。原告にとって、実質的な勝訴となる和解だった。

宮城県大和町の中学校教諭・井上陽平さん(仮名・休職中)

 井上さんは、「今回は、(裁判所も争いのない事実として認めた通り)暴行事件は紛れもない事実です。しかし、当時の記録はないし、学校や町教委は、風化しそうになったときに事情聴取を始めた。それに、公務災害の申請をなかなかしませんでした。マスコミに知られることを避けたのです」と話す。暴行事件だけでなく、事後対応が加わって、うつ病を発症したと述べている。

男性教諭の暴行で頚椎捻挫と診断

 訴状などによると、原告側の井上さんは、2010年4月から宮城県大和町内の中学校に勤務していた。暴行事件が起きたのは、同年9月13日午前8時40分ごろ。生徒指導を担当する男性教諭Bが、いきなり井上さんの胸ぐらをつかみ、締め上げ、強く揺さぶった。井上さんは背後にある机に後ろ向きに押され、お尻を押しつけられ、前後に強く揺さぶられる格好になった。診療所で、頚椎捻挫と診断された。

「朝の会が終わった後、B教諭が私の机のところにきました。すると、いいがかりをつけてきたのです。大きな声で『お前! この前、俺になんと言ったんや?』と言われました。恫喝という感じでした。なんの話をしているのだろうと思ったんです。そのとき、職員室には教員も生徒もいました」(井上さん、以下同)