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校長の行為は社会通念上、不法行為に当たる

 結局、裁判は和解となった。主な和解条項と理由は以下の通り。

(1)被告(大和町、宮城県)らは、原告らに対し、連帯して、本件解決金として、2860万円の支払い義務があることと認める。

(2)被告大和町は、町が設置、運営する学校に対して、学校内において職員間での暴力、傷害または疾病等の事象が生じた場合には、適切な調査、報告及び共有を行う。また、被災職員に対して公務災害申請に関する指導及び援助をする。そして、被災職員が休職を取得した場合、復職の際に被災職員の心身の状態の把握に努める。職務に支障が生じる事項について被災職員の求めに応じて他の職員に周知するように、あらかじめ指導する。

和解理由:
 B教諭が中学校の職員室で同僚の井上さんに対して、その胸ぐらを掴み、締め上げるという暴行を加えたことは争いがない。これは公務員の職務中の不法行為に当たる。また、校長(当時)は、暴行事件後、暴行の事実などを速やかに調査し、井上さんによる被害届や公務災害申請を妨げてはならなかった。しかし、井上さんに対して、被害届や公務災害申請を断念するように働きかけた。校長の行為は、社会通念上、相当な働きかけを超えるものとして不法行為に当たるというべきである。

いつ暴行の事実を知ったのか。二転三転した校長の供述

こうした学校や教委の対応は氷山の一角

 この和解が、職場環境の改善につながるのだろうか。

「校長や町教委に質すと、公務災害の申請は一生懸命やっていた、と返ってきました。しかし、『何をもって一生懸命か?』と聞いても、具体的な答えはありませんでした。こうした学校や教委の対応は、氷山の一角だと思います。同じ職場では体調を崩した職員が他にもいます。同じ“畑”にいるんだから、精神が不安定になる人もいるし、転勤後に教員をやめた人もいます。私も一時的に復帰したことがありますが、そのとき、何度も呼び出されたことがある校長室へ行けないのです。それに、復帰したとしても、起きたことが教職員に共有されていません。これでは教訓がいかされないのではないかと思います」

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 今後はどうするつもりなのだろうか。

「現在の休職期間が10月末までなので、それまでに復職プログラムに出ようと思います。そのプログラムは県教委が主催するもので、精神的な理由で休職した教職員が対象です。判決ではなく、和解としたのは復職の問題もあったんです。判決にする場合、さらに1年かかると言われていました。裁判をかかえたままでは(復職は)厳しい。和解すると、プログラムを受け、復職もできる可能性が出てくると思います」

写真=渋井哲也