なんで私が暴行をされたのか
この記録には、B教諭の言い分も掲載されている。事件の2日前に起きた、部活動の体育館の利用に関する出来事が書かれていた。
B教諭が顧問をするバスケットボール部は、朝から練習試合があった。一方、井上さんが顧問を務めるバドミントン部も半面を使用することになっていた。しかし、バドミントン部は体育館に現れなかった。そのため、B教諭は井上さんに職員室から電話をして、使わないことを確認した。それまでの時間、全面を使えなかった。このことで頭にきていたB教諭は、語気を強めながら、井上さんの胸ぐらを掴んだことが記録されている。つまり、体育館の使用に関する出来事をきっかけに、暴行事件になった、としている。
なお、B教諭は、12年3月に略式起訴され、罰金刑を科せられた。
「聞き取りでも、裁判の被告側の答弁書でも、体育館の使用に関するトラブルが暴行の理由になっています。裁判の中で、被告側は、暴行前に『なんで謝らないんだ?』などと謝罪を求めたが、私が無視して仕事を続けた、と主張しています。本当にそのことなのか。なんで私が暴行をされたのか、わからないのです。和解の中では、暴行の理由は問われませんでした」
被告側は、暴行の前、体育館のトラブルを理由にB教諭が「なんで謝らないんだ」と言ったと主張した。しかし、(13年1月22日付けの)地方公務員災害補償基金宮城県支部に提出するための「現認証」を、職場の3分の2にあたる25人の職員が提出した。そのうちの十数人が目撃した暴行を書いている。教頭は、B教諭が「何て言ったのや」と言ったと記している。この詳細部分は町教委が作成した議事録にはないが、現在でも修正されていない。そのため、井上さんとしては今でも修正を求めたい考えだ。井上さんの妻も「非常に憤慨している」と話している。
裁判で原告側の訴えが認められたのは、井上さんが校長らとのやりとりを記録した録音データが証拠として採用されたことが大きい。なぜ井上さんは録音に至ったのだろうか。
「当時はスマホを持っていませんでした。ただ、授業研究の一環で、自分の話し方をチェックするためにICレコーダーで録音をしていたのです。校長との話し合いが始まったとき、最初は録音をしていません。最初から校長に対して不信感を抱いていたわけではありませんから。途中から不信感を持ち始めました。ただ、校長とのやりとりを録音するためにICレコーダーを買ったわけではないという“罪悪感”もありました。最初から録音していればよかったとは思いますが……」