練習量不足を認めたら、心も身体も折れてしまう
そんな状況に不倫スキャンダルは追い打ちをかけた。元を辿れば自分の責任のはずなのだが、自分ではどうすることもできない環境への恨みと後悔の念にとらわれてしまい、本来やるべきトレーニングに目を向けることができなかったのだ。そのツケが東京五輪の「予選落ち」という形で現れてしまった。
「その時点で本人は原因に気づいていたと思いますよ。報道によるメンタル面の問題や周囲の環境の影響という話もありましたけど、結局、シンプルに練習量が不足していた。ただ、五輪期間中にそれを認めてしまったら、心も身体も折れてしまう。そうなれば、国の代表として長丁場を戦い抜くことなど不可能です。だから、自分で自分の準備不足を認めるわけにはいかなかったのだと思います」(同前)
東京五輪が終わり、周りの雑音がなくなった。そこでようやく、自分を冷静に振り返ることができた。瀬戸は、自分をもう一度鍛え直す決意をする。そしてそれは、現役続行という決断にもつながった。
ただ、そこにはひとつ大きな問題があった。
「梅原コーチの下を離れて以来、組んでいた同級生の浦瑠一朗氏はパートナーとしては申し分ない存在です。ただ、トレーニング面において瀬戸を極限まで追い込めるかというと、そうではない。このままでは東京五輪の二の舞になることは明白でした」(同前)
新たな“鬼”コーチの門下へ
結果的に瀬戸が選んだ選択は、東海大学で指導する加藤健志コーチの門を叩くことだった。
「加藤コーチは東海大学で平泳ぎを中心とした多くの代表選手を育てあげた実績のあるコーチです。2016年のリオ五輪で女子200m平泳ぎ金メダルに輝いた金藤理絵も師事していた。そしてなにより加藤コーチのトレーニングは、とにかく群を抜いて厳しいことで知られているんです」(前出・競泳関係者)
瀬戸にとってそんな環境に身を置くことは、断固たる決意ができた証拠でもあった。
「ライバルだったはずの萩野はすでに引退。大学院に進学して第二の人生を歩み始めています。長年師事してきた梅原コーチもすでに現場を離れ、所属するJSSの強化グループを統括する立場になっている。瀬戸自身の年齢も気づけば28歳となり、水泳選手としてはもうベテランの域です。自分の立ち位置を脅かす若手も台頭し始めてきた。これまでと同じように“ごまかす”だけではなかなか難しい状況になっていた」(前出・スポーツ紙記者)