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警察にとっては「義理事はヤクザを逮捕する大チャンス」

 長年にわたって現場で暴力団犯罪の捜査にあたってきた警察当局の捜査幹部は、「義理事はヤクザを逮捕する大きなチャンスだ」と捜査側ならではの視点で手の内を明らかにする。

6代目山口組若頭の高山清司 ©共同通信社

「ヤクザにとって義理事は最も重要な儀式で、欠席などはまさに“義理を欠く”こととなり許されません。大きな行事には、必ず姿を現す。だから事件の容疑者となる人物については、義理事の日に逮捕状を持参して待ち構える。そこで身柄を確保して逮捕するんです。逃走しているヤクザを追いかけるのは非常に困難なだけに、義理事の日は最も確実。実際に義理事の日に狙いを定めて逮捕したこともあります。

 大昔は警察とヤクザの間にも『義理事の最中には逮捕しない』という暗黙の了解があったようです。例えば葬儀だとか、どこかの親分の襲名披露などの慶事の際には逮捕状が出ていても執行しない。その代わり、『義理事が無事に終わった翌日には出頭して来い』と伝えると、その通りに出頭してきたものだったとの話を聞いたことがあります」

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工藤会関係先を家宅捜索する福岡県警捜査員と野村悟被告(中央左) ©共同通信社

 しかし、そんなかつての牧歌的な時代の話は「現代では到底あり得ない」とも主張する。

「近年のヤクザは何が何でも逃げる。『義理事が終わるまで…』などと待っていたら、必ず逃げられてしまいます。逃走支援というほどではないが、かくまう組織は各地にありますから。ましてや『翌日に出頭して来い』などの呑気な話は言語道断です。だからこそ、義理事が逮捕のチャンスなんです」

 警察とヤクザの“人情噺”も、今は昔ということなのかもしれない。(文中敬称略)

山口組分裂の真相

尾島 正洋

文藝春秋

2022年5月25日 発売

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