4月10日に行なわれた女流国際棋戦「SENKO CUPワールド碁女流最強戦2022」で、初優勝に輝いた上野愛咲美女流棋聖(20)。日本女子が国際棋戦で世界一となるのはこれが史上初であり、男子を含めても2014年以来の快挙だ。
相手の石を豪快に仕留める攻撃的な碁風は「ハンマーパンチ」の異名を持ち、2021年は54勝25敗で女性初の年間最多勝を獲得。女性として史上初めて、男女混合の棋戦で決勝戦に残った棋士でもあり、18日からは女流立葵杯をかけて藤沢四冠との三番勝負に挑む。
さらに、妹の梨紗初段(15)も12歳9カ月という女流史上3番目の若さでプロ入り。史上最年少で100勝を達成した仲邑菫二段(13)のライバルとしても注目されている。
これまでの道のりや互いの棋風について聞いた前編に続き、囲碁界の未来を担う姉妹の素顔に迫った。(全2回の2回目。前編から読む)
愛咲美「棋士同士だと空回ったり、こじらせちゃったり」
——愛咲美さんの女流最強戦優勝は囲碁界にとって明るいニュースでした。近年は“お隣”の将棋界のブームがすごいですが、どんな風に見られているんですか。
愛咲美 将棋は見るのも指すのも本当に人気ですよね。囲碁界には将棋もする人が多くて、棋院の控室には将棋盤が置いてあります。私はルールくらいしかわからないんですが、昨日も指している人がいましたね。気晴らしになるし、みんな勝負事が好きだから燃えるんです。将棋の結果に一喜一憂することもあります。
——将棋の棋士の方とも交流はあるんですか?
愛咲美 そんなにはないですね。何回か食事会で一緒になったことがあるぐらいですが、楽しかった記憶があります。気分転換のコツとか練習方法とか囲碁と共通する部分は多いと思うので、機会があればまた色々話を聞いてみたいですね。はやくコロナ禍が終わってくれれば……。
———将棋棋士と囲碁棋士の結婚も多いですよね。
愛咲美 いらっしゃいますよね。でも囲碁も将棋も先を考えて“読み合う”競技なので、棋士同士だと空回ったり、こじらせちゃったり、読みを間違えてすれ違ってしまったりしそうですよね。マンガの「かぐや様は告らせたい」みたいな。全部妄想なんですけど(笑)。
梨紗 行動の先を読んじゃう人は多いよね。
愛咲美 私はもともと友達や家族に対しても結構そういうタイプなんです。相手はこう思ってるんじゃないか、とか余計な推理をしはじめちゃって沼にハマるというか……。
梨紗 私もそうだから、やっぱり囲碁の影響はあると思う(笑)。
——先を読むことが日常になっているということですか。
愛咲美 そうなんですよ。逆に言うと、棋士は気を遣ってくれる優しい人が多い気もします。里菜先生(藤沢里菜女流四冠)にプライベートのお願いごとがあってLINEしたら、こっちがまだ「お願いがあるのですが」しか言ってないのに「もしかして〇〇の件?」と察してくださったり。そういうところは囲碁棋士ならではの“読み”だと思います。
梨紗 たしかに、そういう人多いかも。みんなに心の中を読まれてる気がする(笑)。