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床は凸凹、トイレに扉はなし、室内の配色は原色だらけ…それでも入居率は100%! 伝説の珍奇建築「三鷹天命反転住宅」が建てられた“意外な経緯”

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室内のいたるところにある“仕掛け”

――生活に最も密接した作品として「家」を設計することになったわけですね。

松田 はい。身体にとって住まいは欠かせないものですからね。。

三鷹天命反転住宅の支配人を務める松田剛佳さん

 それだけに、家については皆が何かしらの価値判断基準を持っている。なので、必ず、その人の理想や常識とのズレが出てくるんです。だからこそ、私自身も、皆さんが三鷹天命反転住宅を見たり体験したりしたときのリアクションを興味深く感じています。

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――なぜこのような“珍奇”とも思える内外観を設計したのでしょうか。

松田 荒川とギンズは、一人ひとりの身体が中心となるような空間と環境を設計・構築しました。室内の床が凸凹していたり、照明のスイッチが変わった箇所に設置されていたり、配色はビビッドな原色の組み合わせであったり……。今までと少し違った環境・条件で過ごすことを通じて、今まであり得ないと思われていたことがあり得るようになるかもしれない=“天命”の“反転”が可能になる……という意図が込められた建物なのです。人は環境に適応していく。つまり、環境に人は大きく影響されるというわけですね。

三鷹天命反転住宅302号室内観。部屋には「極限で似るものの部屋」という名がつけられている

 わかりやすく言えば、荒川とギンズは常識や固定観念に疑問を投げかけ、考え、生活する空間をつくりあげたとでも言いましょうか。

 ちなみに建物は全部で9戸あって、そのうち5戸が賃貸用の住居で、実際に現在も居住されている方がいます。残り4戸のうち2戸が宿泊・見学会用の部屋、もう2戸は私たちが事務所として利用しているという状況です。

一体どんな人が住んでいるのか

――実際に住まれている方はどんな方がいらっしゃるのでしょう。

松田 過去に住まれていた方も含めると、たとえばスマートニュース株式会社を創業した鈴木健さんであったり、数学をテーマとした独立研究者の森田真生さんであったり。映像作家や絵本作家、アーティスト、建築家など……幅広い職業の方がいらっしゃいますね。

 変な言い方に聞こえてしまうかもしれませんが、どこか“スーツをうまく着られる人があまりいない”かもしれません。『死なない子供、荒川修作』((2010、監督:山岡信貴)/荒川修作とギンズの思想、そして三鷹天命反転住宅に住む人々の記録をまとめた映画)が公開された後は、周囲から「住民の人達みんなめっちゃキャラが濃いですね」とよく言われました(笑)。

――そもそもなぜ三鷹に建設することが決まったんですか?