東京都三鷹市郊外。自然豊かな住宅街に囲まれたエリアに位置するその物件は、ブロックが積み重ねられたような不思議な構造、原色に彩られた強烈なカラーリングで、周囲に異様な雰囲気を醸し出している。
建物名は「三鷹天命反転住宅 イン メモリー オブ ヘレン・ケラー」という。芸術家・建築家の荒川修作とマドリン・ギンズが「死なないための住宅」をコンセプトに考案設計した建物だ。ホームページによると、2005年に竣工され、現在は、全9戸の物件のうち5戸が賃貸用、2戸が宿泊・見学会用、残りの2戸が管理会社の事務所として利用されているそう。
つまり、建物の半数以上は賃貸物件であり、今もいくつかの世帯が、この強烈なビジュアルの建物の中で生活を送っているというわけだ。はたして、この中で生活するのは一体どんな心地なのだろうか、どのような人がここで暮らしているのだろうか……。
私自身が引っ越すのは難しいけれど、せめて一度は泊まってみたい……。かれこれ数年、興味が頭をついて離れなかった私は、三鷹天命反転住宅が行っているショートステイサービスを利用し、この奇妙な建物に宿泊することを決めた。
住宅街に突如現れる“珍奇な建築”
決意さえすれば直ぐに行動。ホームページから予約を行い、現地へと向かう。最寄駅はJR中央線の武蔵境駅だ。
気持ちがはやっていたのか、チェックイン時刻よりもずいぶん早い時間に駅に到着してしまった。駅から物件までは3km弱。普通なら公共交通機関を利用する距離だろう。しかし、せっかくなので、どのような街に三鷹天命反転住宅があるのかを少しでも知ろうと、駅から歩いて現地へ向かうことにする。
日差しがじりじりと照りつける中、庭付きの一戸建てが目立つ住宅街をひたすら南下。40 分ほど歩いたところに……あった!
街路樹に覆われていて、全容こそ確認できないが、ちらと見える原色に彩られた建物は三鷹天命反転住宅に違いない。