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部屋を一つひとつ回っていくと…

 もちろんたっぷりと体験させていただくつもりです!

 表情でそう伝え、すぐにそれぞれの部屋を見て回っていく。

三鷹天命反転住宅「303号室」間取り図(公式ホームページより)

 まずは、入り口から一番近い「study room」という部屋に。外はピンク、中は真っ黄色の球状で、まるで映画のセットのような印象を覚える。

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「study room」。部屋の一つひとつが柱としての役割も果たしているという

 中はFRP材のような質感でツルツルとしていて、靴下を履いていると滑りそうになり、転げないように身体のバランスを取る必要がある……。なるほど、これが先に説明を受けた“3歳の子どもが大人より使いこなせる場所もあれば、70歳以上の大人にしかできない動きも生じる”ということだろうか。思えば、球状の空間に足を踏み入れたのはこれが初めての体験かもしれない。

部屋の中はツルツルとしていて油断すると足を滑らせてしまう。球形の独特な形状を支える構造計算には原子炉の設計が参考にされたそう

 部屋の中で声を発するとお風呂の中と同じように音が反響する。お風呂で声が響くのは温度・湿度が高ければ高いほど音が速く伝わるためだと聞いたことがあるが、この室内は温度・湿度が特別高いというわけではない。ということは、この独特な形状が反響の要因になっているのだろう。

 この空間で演奏をすると、絶対に気持ちいい。私がもしも楽器を弾けたなら……などと考えながら、その他の部屋もどんどん回っていく。

「tatami room」。差し込んでくる日差しが心地よい

 隣の部屋は中央部に円状の畳が敷かれていた。畳に寝転がって横を向く。すると、敷き詰められた砂利が目に入る。普段の生活ではなかなか体感しない環境、そして視界だ。

 
畳の縁のすぐ横には室内にもかかわらず砂利が敷き詰められている

 “畳は四角形”であったり“砂利は屋外に敷くもの”であったり……無意識下で“○○はこういうもの”と思い込んでいることに気付かされる。

室内の床には大小2つの大きさが異なる凹凸がついている。大きい方は大人の土踏まず、小さい方は子供の土踏まずに合わせて設計されていて、自然と自分の足に適した凸部に足を置いてしまう

 メインとなる床だってそうだ。平面でなく、小さな盛り上がりがそこかしこにあり、歩くと常に足ツボが刺激される。

 それでいてつまずくことはない。どうやら盛り上がりの縁が微妙に暗くなっていて、無意識の内に視覚で凸の部分を認識しているようだ。普段は意識しないが、歩くという行為は、“足を踏み出す”ことそのものではなく、“視覚で状況をキャッチアップしながら足を踏み出す”という、身体の複合的な要素が絡み合った行為なのだということを認識させられる。試しに目をつむって歩いてみると、案の定盛り上がりに足を引っ掛けてつまずいてしまった。

赤と緑という補色で配色された天井部。多数のフックが設置されており、さまざまなものを天井から吊り下げることができる

 他にも、天井には大量のフックが設置されている(ここから物を吊り下げて収納スペースをつくるそう)。シャワー室の扉は透明。シャワー室の裏側にあるトイレには扉がない……など、常識とはかけはなれた設計がそこかしこにある。

シャワー室は大人1人が入るのがやっとの大きさ

 大げさに聞こえるかもしれないが、「家とはこういうもの」「部屋とはこういうもの」という“思い込み”にいかに囚われながら生きているかということに気付かされるような思いになった。

シャワー室の裏側に設置されているトイレ。扉はなく排泄時にはどこか緊張感を覚える

 これまでの“住居に関する常識”がことごとく通用しない。それだけに、日々さまざまな創意工夫をこらすことを楽しめる人でなければ、生活を続けていくのは難しそうだ。

 実際にここで暮らしている人は、与えられた環境をどのように活かしているのだろう……。