三鷹を建設地に選んだ“納得の理由”
松田 「軽井沢であったり葉山であったり、もっと風光明媚な場所に建てればよかったんじゃないですか?」という声をたまにかけられます。ただ、この家のコンセプトのひとつに “ふつうの住宅街にふつうに建てる”というものがあったんです。
例えば、三鷹天命反転住宅が軽井沢に建っていると、一定の人は「あれは私の生活とは関係ないものだ」こう思うでしょう。でも、三鷹に建っていたら、対岸の火事ではなく、日常の一つとして認識して見てもらえますよね。それがとても大事なことなんです。
――なるほど。たしかにこの辺りで生活していると、住んでいる人が建物から出てくる瞬間に出くわすこともあるでしょうし、自分ごととして物件に向き合うことになりそうです。ちなみに、いざ賃貸物件としての活用が始まったとき、申込みはすぐにありましたか。
松田 はじめは三鷹市の第三セクター「まちづくり三鷹」に間に入ってもらって3戸だけ貸し出すかたちでスタートしたんですが、反響はそこまで大きくはなかったですね。
――それは意外でした。一方、交通の便や室内の構造など、“住居としての利便性”が優れているとは言い難い三鷹天命反転住宅を選ぶ方は、長く住み続ける人が多いような気もします。実際のところどうなのでしょう?
松田 おっしゃる通り、10年以上住まれている方が珍しくありません。更新のタイミングで転居するという方はほとんどいなくて……。これまでで一組だけでしたかね。止むに止まれぬご事情がないかぎり、長く住まわれている方が多いように思います。本当にありがたいことです。
――1ヶ月の賃料はいくらくらいなのでしょうか。
松田 部屋の大きさによって異なるのですが16万~18万円ほどです。当初は25万円くらいで値段設定をしていたんですが、それだと住む人が限られてしまう。なので、見学会や宿泊利用をはじめ、家賃収入以外の部分で収益を上げて、少しでも住みやすい値段設定にしています。ただ、もちろん、なかなかいいマッチングができずに空室が続いてしまうこともありますよ。
――空室があるときには内見に来られる人も多そうですね。
松田 不動産を全体でみてワンオブゼムで来られる方はほとんどいなくて、決め打ちで来られている印象なので、対応に困るほど沢山の方から問い合わせが……ということはありません。
内見にまつわる話でいうと、案内していると、その後契約に進む人の恋に落ちる瞬間が見えるんですよ。入室時のリアクションで、その人が契約申し込みをするかしないかがわかるとでも言いましょうか。
――先ほどの話で、宿泊・見学会用の部屋も用意されているとのことでしたが、そうした物件活用は当初から想定されていたのですか?
松田 いえ、2005年の完成当初は住戸の活用方法が固まっていなくて、ふんわりと「分譲で皆さんに買っていただいて……」と考えていました。賃貸を始めたのも、建設後すぐではなく、1年ほど時間が経った頃だったんです。宿泊・見学会を始めたのはそれよりさらに後のことですね。