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世界的に評価されている建築が減りゆく現状

――見学会に来られる方や、小学生のリアクションをうかがっていると、荒川修作やマドリン・ギンズについて知らなくても、興味・関心を持つケースが多い。つまり、それだけ物件の持つ魅力が大きいと言いかえることもできそうです。

松田 たしかに、私たち自身も荒川修作とマドリン・ギンズの作品は、作家の名前よりも作品で評価されているタイプだと思っています。「三鷹の変な家(三鷹天命反転住宅)」とか、「岐阜の危ない公園(養老天命反転地)」とか。年齢・性別・宗教問わず、本当にいろんな人が素直に作品を楽しんでくださっているので、健全なことだと捉えています。

――三鷹天命反転住宅は、新型コロナウイルスの影響で収益が落ち込み、2021年には補修工事費用を募るクラウドファンディングを行われたことが一部で話題になりました。やはり、歴史的建造物を次世代に繋げるための管理運営における課題は少なくないのでしょうか。

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松田 結局のところ三鷹天命反転住宅の魅力は「来ないとわからない」のが難しい部分なんですよね。出張先で「あの物件は何がいいの?」と尋ねられることがよくあるんですが、とても困ってしまいます。言葉を重ねても体験には勝てない。なので、体験機会を増やそうと努力しているのが現状です。

 体験してもらって、ファンになっていただくことが継続的な管理運営にもつながるのだと考えています。ただ、場所や部屋数、私達が対応できる時間など、限りもあるので、そんな中で、どうすれば、よりよく体験していただけるかということが一番の課題でしょうか。

松田剛佳さん

――中銀カプセルタワービルや世田谷の旧・尾崎邸など、近代の偉大な建築が十分な保護保全がされているとは言い難いなか、取り壊さざるをえない状況に追いやられたりもしています。そうした現状についてはどのようにお考えでしょう。

松田 建築の専門家はもちろん、一般の方にとっても、中銀カプセルタワービルや旧・尾崎邸が魅力的な建物であることは間違いありません。そういった対象になっている物件が取り壊しになってしまったり、話があがっている現状は残念ですね。日本には世界的に評価されている建築が多くあるので、そうした建築物がなくなっていくこと、つまり、見て学べる機会が失われていくことは大きな損失につながるのではないかと懸念しています。

――そうしたなかで、松田さんのお考えとしては体験する機会を充実させることで、応援してくれる人を増やしていこうということでしょうか。

松田 そうですね。究極的にはここで暮らしてほしいという思いがありますが、宿泊でも、見学でも、少しでも長く、一人でも多くの方に「三鷹天命反転住宅」を体験していただくための努力を続けていきたいと思っています。

© 2005 Estate of Madeline Gins.  Reproduced with permission of the Estate of Madeline Gins.

© 1997 Estate of Madeline Gins.  Reproduced with permission of the Estate of Madeline Gins.

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