「すいません、この建物何なんですか?」
――すべての物件を賃貸用にせず、宿泊・見学会用にもしたのはなぜなのでしょうか。
松田 建物の活用法について色々と検討している間に、入り口から「すいません、この建物何なんですか?」と聞いてくる人がいたり、海外の建築を学ぶ学生がチャイムを鳴らして学生証を持って立っていたりすることがよくありまして。設計を担当した荒川も「できるだけたくさんの人に使ってもらいたい」という思いを強く持っていたんです。
そうした背景があって、なるべく多くの人に天命反転住宅を体験してもらうために何ができるのか……とトライアンドエラーを繰り返すうちに、結果的に現在のかたち(全9戸中、賃貸物件5戸、宿泊・見学会用物件2戸、管理会社用物件2戸としての活用)になりました。
――宿泊・見学会を始められてから手応えのようなものはありましたか?
松田 見学会開始当初は、困惑される方が多かったんですが、それが嬉しかったですね。「あの丸い部屋は回るんですか?」と聞かれたりして。そのとき「世の中にこれまでなかったものができたんだな」という確信が持てたことを覚えています。
今はインターネットが普及したこともあって、「なにか有名な家らしい」だとか、「なにか身体にいい家らしい」だとか、事前に最低限の情報を仕入れて来られるので、極端に困惑される方はほとんどいません。ただ、見学会などで「荒川修作のことを知ってる人はどれくらいいますか?」と質問を投げかけても、誰からも手が上がらなかったりして。それは、ありがたくもあり、自分たちにとってはプレッシャーでもあります。
というのも、見学会も無料ではなくお金を頂戴しているので(大人 2800円/小・中・高校生 1000円/幼稚園以下 無料)、荒川のことを知らないこの人達を楽しませて帰らせることはできるんだろうか……といった思いになるんですよ(笑)。とはいえ、もちろん来てくださることは嬉しいですよ。実際に「以前見学に来て泊まってみたいと思ったんです」と宿泊に来られる方も結構いらっしゃって、それもありがたいことですね。
――見学会に来られるのはどんな方が多いのでしょうか?
松田 老若男女、本当にさまざまです。例えば慶応三田会の比較的お年を召されたご一行の方が、「ここに住んでると長生きしそうだねえ」などとお喋りされながら楽しんでくださったり、コロナ禍以降は休止中なんですが、最近は近隣の小学校に授業で見学に来てもらったり。
――小学生も来るんですね。興奮している様子が目に浮かびます。
松田 そうですね。「学区内にある変な家にやっと入れた!」みたいな感じなのではないでしょうか。「お母さんに自慢しよ!」という声を聞くこともあります。
今は三鷹天命反転住宅が小学3・4年生向けの図工の教科書で紹介されていたりするので、地元の子からしたら不思議なんでしょうね。知ってはいるけれど、入ったことがない建物なわけで。