プレハブの発熱外来
そのあとの動きは早かった。
朝礼があった日、院内でPCR検査ができる体制を確立し、翌々日にはERの一角に「発熱外来」を設けた。しかし、それを公にはしなかった。あそこに行けば検査してもらえると、発熱症状の患者でパンクすることを恐れたのだ。案の定、この頃から発熱している患者をのせた救急車の「たらいまわし」が起き始め、断らない同院ERへの救急要請が増えていった。
「院外に発熱外来のプレハブを建てましょう」
3月半ば、山上は病院の上層部にそう提案をした。発熱症状のある患者をそこで診るようにすれば、院内感染のリスクを下げられる。それはいい、建てようということに即決まったが、問題は場所だった。コロナの患者を全面的に受け入れている姿勢を示せば、一般患者が来なくなるのではないか――篠崎はじめ病院上層部はそう懸念していた。実際に外来患者数の減少は起こりつつあった。
「なるべく病院から離れた院外裏の、目立たない場所に設置しよう」
という上層部の意見に対し、山上は「正面玄関の横に建ててほしい」と、繰り返し訴えた。そこが救急車の停車地近くであり、ER入り口の向かいに位置する場所だったからだ。
「通常の救急患者も、発熱症状がある患者も受付は一本化する。そこで看護師がトリアージ(緊急度に応じて治療の優先順位を決めること)を行い、コロナ疑いは発熱外来、それ以外の患者はERへという体制をつくれば、ERのレッドゾーン(感染者区域)は少なくなり、医師や看護師の戦力が分散されません。ERから発熱外来の場所が遠くなると、“行き来”が必要になってしまう」(山上浩)
議論を重ねた結果、山上の提案通りに決まった。4月に工事に取りかかり、およそ2週間でプレハブの「発熱外来」が完成する。工事費は2000万円。のちに国から補塡されるが、この頃は補助が出るかどうかもわからなかった。篠崎は内心、「時間が勝負、お金はあとで何とかなる」と思っていた。
「だから決めてからすぐつくったんですよ。唯一欠点があるとすればCT室がなかったことですね。外来にCTがあれば、肺炎を起こしているかどうか、すぐに診断できますから」(篠崎伸明)
同じ頃、篠崎は、鎌倉市医師会会長の山口泰(62歳)に「発熱外来をつくるので応援してもらえないか」という相談をもちかけた。通常業務のある同院ERや各科医師だけでは24 時間発熱外来を稼働させることは難しい。医師会に属する開業医に、わずかな時間でも診察の一部を担ってもらう形が理想だった。その際は「湘南鎌倉総合病院の非常勤として雇用し、責任は病院側がもつ」ことも提示した。
「もちろん協力しましょう」
山口は即決した。