湘南鎌倉総合病院は、日本で最大規模の病院・医療事業グループである「徳洲会」に属し、“断らない救急”を掲げて近年日本で最も救急車の搬送を受け入れている病院である。
その方針はコロナ禍においても変わらなかった。院長の篠崎伸明さんは全職員に向けて「従来通り、救急を断りません。貫きます」と言い切り、それを実行するために体制を整えたのだ。
ここでは、全国の徳洲会病院がいかに新型コロナウイルスと対峙し、闘ってきたかを描いた、ジャーナリスト・笹井恵里子さんの著書『徳洲会 コロナと闘った800日』より一部を抜粋。コロナの疑いが晴れた患者を転院搬送する「救急救命士」の仕事に迫る。(全2回の2回目/前編に続く)
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現場密着
2020年年末から2021年年明けにかけて、私は湘南鎌倉総合病院の救命救急センター(ER)で密着取材を行っていた。
コロナ発生前に5日間の密着取材をしていた時と比べても、現場の雰囲気はほとんど変わらないように感じた。ERで働く医師や看護師は、マスクに加えてゴーグルをつけるのみの軽装備だ。独自のスコアリングにより、感染リスクが高まる場合にのみPPE(防護具)を身につける。数ある徳洲会病院の中でもコロナ禍において“独自の”何かを打ち出したところは、強い。
現場のトップが「断らない」理念を貫くために、共通のルールや基準を取り決めて職員に説明する。それは、「何が起きても、ヒラの職員の責任にはしない」という姿勢であると感じられた。
しかし、いくら一病院ががんばっても、急性期を脱した患者を受け入れる「後方支援の病院」がなければ、地域の医療はまわらない。感染者が増えるにつれて、軽症患者やアフターコロナの患者を受け入れる病院の必要性が増していった。積極的にアフターコロナ患者を受け入れますよ、と表明した東大阪徳洲会病院のような存在はまだまだ数が少なかった。
1月3日に日付が変わったばかりの深夜、ERでは救急救命士3人と、救命救急センター長の山上浩が、ある患者の転院に頭を悩ませていた。
知的障害をもつ50代女性が2020年12月、コロナ陽性と判定された。同院で2週間入院して治療を受け、その後に陰性を確認して12月下旬に退院。しかし、1月2日に再び呼吸苦を訴え、発熱もあったため救急車で同院ERへ。ERではレントゲン、CT、心電図、尿検査、そしてコロナに関する抗原検査を行った。結果、コロナは陰性、肺炎もコロナの跡はあるものの「再燃していない」と判定された。
「もうコロナの疑いがない状態ならば、患者を転院させよう」と、山上は指示を出した。
より緊急性の高い患者の受け入れに備えるためだ。「神奈川モデル」では「検査結果でコロナが陰性化した患者の入院管理」を割り振られた病院がある。それらの病院にお願いをしようということになった。