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「救急とコロナ、どちらも断らない」を実現するために…湘南鎌倉総合病院がコロナ禍の初期段階で見せた“貫くための行動力”

『徳洲会 コロナと闘った800日』より#1

2022/06/25
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「とはいっても医師会の先生方に頼むわけですから、発熱外来はどんなところか、事前に見に行きました。窓がたくさんあって換気もしっかりしていたので、これなら大丈夫、と。

 限られた場所でしかPCR検査が行えない時期でしたから、地域の先生方がコロナの診療経験を積む良い機会にもなると思い、会報などで積極的な参加を呼びかけました」(山口泰)

 医師会内では「まだ行政が動いていない時期に、鎌倉市医師会として一つの病院を応援し、何かあったらどうするのか」という意見もあったという。だが、同医師会理事の河郁京(56歳)は、迷うことなく発熱外来に参加すると手を挙げた。

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「湘南鎌倉総合病院のERの先生は、いってみれば戦友ですよ。大変な状況の中、コロナの患者を真っ先に受け入れると表明している仲間たちを見捨てるわけにはいかない。医師会から何人も、発熱外来に参加しました。皆、同じ気持ちだったでしょう。

 コロナ最前線で奮闘する仲間を疲弊させたくない、だから手伝いたいという気持ちと、診療所でPCR検査ができない時期だったので地域医療に貢献したいという思いです」(河郁京)

 院外のプレハブで発熱外来がスタートしたのは4月22日のことである。同時にコロナ専用の31床のベッドを備える「仮設A病棟」も設置された。こちらは規模が大きいこともあって、病院本棟から徒歩5分ほどの場所である。

コロナ臨時病棟の外観(著者提供)

「コロナ臨時病棟」5棟180床

 A病棟を建設中、神奈川県から「A病棟付近にさらに臨時病棟を追加で建設したいので、運営をお願いできないか」という打診があった。篠崎は「ありがたい話だった」と語る。

「建設費用、人件費などを神奈川県に負担していただき、病院近くの別棟でコロナの治療を行う。それは病院本体の機能を安全に維持できるということです。

 病院内には抗がん剤治療を受けていたり、移植手術後の患者さんなど、免疫機能が低下している方が多くいて、そこでコロナの治療を行うことには不安がありました。ですから外にスタッフを送って、そこで治療する体制ができればそれに越したことはない。あとから考えてもA病棟の31床だけでは、とても足りませんでした」

 神奈川県はB、C、D、E、Fの5棟を「コロナ臨時病棟」として設置。5棟あわせて180床を確保した。

「第48回日本救急医学会総会・学術集会」にて発表した資料より抜粋

 神奈川県ではコロナ禍における医療崩壊を防ぐため、各病院の機能分化を進める「神奈川モデル」を構築した。無症状者や軽症者は自宅や宿泊施設で療養させ、中等症患者を集中的に受け入れる「重点医療機関」を設置する。患者が重症になった段階で「高度医療機関」へ送り込む流れだ。病状が回復した患者は、後方支援病院が引き受ける。

 湘南鎌倉総合病院は、神奈川県から重点医療機関に指定され、5棟のコロナ臨時病棟の運営を託された。