さまざまな専門誌が発行されている日本。その数は世界有数の多さだと言われているが、朝礼で使う小話を集めた『月刊朝礼』をご存知だろうか。コミニケ出版が発行しているこの専門誌は、創刊された1984年から現在に至るまで、全国の企業で活用されている“老舗雑誌”だ。

 今回は、『月刊朝礼』の知られざる創刊の経緯やネタ集めの裏側、そして編集部の美しすぎる朝礼について2回に分けてお送りする。(全2回の1回目/後編に続く

朝礼の専門誌『月刊朝礼』

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 日本で朝礼が始まったのは、1890年代末(明治30年頃)だと言われている。その後、第二次世界大戦前には多くの学校や職場で盛んに行われるようになった。

 その朝礼で使える1日1話の「ちょっといい話」を集めた企業向けの朝礼専門誌『月刊朝礼』は、今年で創刊38年を迎える。現在、1500社以上が採用し、毎月1万5000部ほど刊行されているという。今回は、出版元であるコミニケ出版の現社長、下井謙政さんに『月刊朝礼』が創刊された経緯や、朝礼への想いについてお聞きした。

なぜ朝礼の専門誌が生まれた?

――朝礼の専門誌があることにも驚きましたが、38年間も続いているんですね。

下井謙政さん(以下、下井) よく驚かれますが、主にサービス業など中小企業さんを中心に使っていただいています。1年間で12冊、365日分の小話を掲載しているのですが、朝礼で活用することで、従業員さまにマナーやモラルを浸透させたり、社内のコミュニケーションが良くなればという想いで作っています。

――なぜ朝礼の専門誌を作ろうと思われたのでしょうか?

下井 『月刊朝礼』を創刊したのは、先々代社長で私の祖父である創業者の下井勲です。元々、経済紙の記者をしていた祖父が、1959年に大阪でコミニケ出版の前身である編集プロダクションを立ち上げました。

 会社は順調で、大阪の編集プロダクションでは一番くらいに大きくなったのですが、人が増えるにつれ、モラルやマナーが身に付いていない社員も入ってくる。昔は親が忙しくても祖父母がいて目をかけてくれましたが、核家族化が進み、しつけをしてもらえないまま、社会に出てしまう人も増えていたのかもしれません。

コミニケ出版の社長・下井謙政さん ©杉山秀樹/文藝春秋

 しかし、会社には仕事を教える社員研修はあっても、社会人としてのマナーやモラルを教える場はなかったんです。当時の朝礼も、業務報告くらいのものだったそうです。そこで祖父は「心の教育も必要だ」と考え、社内用にテキストを作り、それが『月刊朝礼』の発刊につながったと聞いています。

――よく会社員の不祥事がニュースになりますが、40年以上も前に社員の心の教育を考えられていたとは、先見の明があったんですね。

広告を掲載しない理由

下井 そうですね。だけど最初のころは『月刊朝礼』の発行部数も少なく、やむにやまれず広告も掲載していました。しかし巻を重ねるごとに、じょじょに『月刊朝礼』を買ってくださる企業が増えたんです。

 今は『月刊朝礼』には広告は載っていません。なぜなら、これは雑誌ではなくて「教科書なんだ」という想いで作っているからです。

『月刊朝礼』には1日1話の「ちょっといい話」が掲載されている

――そうした想いも創業者のおじいさまから受け継いだのでしょうか?

下井 それが……私は祖父とも、その次の社長になった祖母とも、実は一度も仕事していないんですよ。最初は、全く別の道に行ったので。

――どちらの道に?