2002年に春高バレーで優勝して以降、下北沢成徳高校は輝かしい成績を残してきた。しかし監督である小川良樹の真の功績は、数々の名選手を育て上げたことにある。
2004年のアテネオリンピックに出場し、栗原恵とのコンビ「メグカナ」で脚光を浴びた大山加奈。
アテネから2016年のリオデジャネイロまで4つのオリンピックに出場しリオでは主将も務めた木村沙織。
2008年北京から2021年東京まで、木村と同じく4つのオリンピックに出場し、うち2大会で主将を務めた荒木絵里香など、下北沢成徳で育った名選手は枚挙にいとまがない。
「高校での勝負がすべてじゃない」
女子バレー界で常識とされた体罰や暴言と決別した小川が次に考えたのは、「高校で3年間を過ごしたあと、選手をどんな形で次のステップへ送り出すか」だった。
「高校の指導者の役割は、選手の希望によって変わります。高校バレーはとにかくやりきりたいけれど、その後バレーを続ける気がない選手には、3年間で燃焼しつくすために背中を押してあげる。一方で、将来Vリーグや全日本でプレーしたいという希望を持つ選手たちにとっては、高校は通過点。だとすれば当然指導法も変わってくるんです」
2000年に大山加奈と荒木絵里香が同時に1年生として入学してきたときのことを、小川はこう振り返る。
「あの2人が入ったのに大会で勝てなければ、周囲に何を言われるだろうという怖さは感じました。でも、あの子たちが高校を卒業した後に大成してもらうためには、高校での勝負が全てじゃないことを考えてあげないといけない。目先の大会で勝つために無理な練習で体を壊したら、日本の財産を失うことにもなる。彼女たちのような飛び抜けた才能を持つ子たちを教える場合は、高校3年間でバレーボールを嫌いにならないように、バレーボールが楽しい、もっとやりたいという気持ちで次のステージに送り出すのが仕事なんだろうと思いました」