生徒に手をあげる、暴言や罵声を浴びせる、過度の練習を行う……。中学や高校の部活動で、問題のある指導が頻発していることは広く認識されるようになってきた。
一方で「選手が主体」という考え方を貫き、体罰とも暴言とも無縁の指導で何度も全国大会優勝を達成した指導者もいる。下北沢成徳高校(女子校)のバレー部監督、小川良樹氏だ。
1981年に大学を卒業して同高に教員として採用されると同時にバレー部監督にも就任。2002年に全国大会、いわゆる「春高バレー」で初優勝を果たしている。その後も名門と呼ばれるにふさわしい成績を積み重ねてきた。
小川の指導がとりわけ異彩を放つのは、女子バレーボールは、いわゆるスパルタ式の練習が主流の世界だったからだ。
しかも強豪校ほど、その傾向は顕著だ。激しく怒る、ときには叩く、そんな指導がまかり通っていた。スパルタ文化で育った元日本代表選手などが、すさまじいとしか言いようのない猛練習ぶりを明かして話題になったことも多い。
女子バレー界のスパルタ練習をよしとする文化は近年も続いている。2010年以降だけでも、髪の毛をつかんで引きずり倒す、練習試合中に平手で叩く、選手を蹴る、暴言を浴びせるといった問題指導が何度も発覚してきた。しかも多くの指導者たちは「選手を伸ばすため」「強くするため」と語り、選手や保護者の側もそれを受け入れてきた。
「実は小川先生も暴力をやっているんじゃないの?」
そんな女子バレーの世界を知るからこそ、小川は自分のスタイルをこう語ったことがある。
「私の指導法は高校バレー界では主流から外れています。裏を行っていますね(笑)。だからうちを卒業した選手が、『実は小川先生も暴力をやっているんじゃないの?』と聞かれることは結構ありますよ」
それほど女子バレーは、暴力や恐怖支配を使って指導する世界だと認識されているのだ。
それではなぜ、小川は高校バレーの「常識」と無縁でいられたのか。
「指導者になってしばらくは、『やらせる』指導でした。私が下北沢成徳高校(当時は成徳学園高校)に来たのは、私が早稲田の大学生だった頃で、コーチをやっていた先輩が就職で忙しくなるから『お前がいけ』と言われたのがきっかけ。そして大学卒業した1981年にあらためて教員としてやってきたわけです」