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「ぼんやりとですが『自分の指導法はこれでいいのか』という疑問を感じ始めていたところでした。それで冷静になってあらためて指導のことを考えたら、思い当たることがいろいろある。バレー部を辞める選手も多かったし、コートで練習してはいても、『早く引退したい』という気持ちを選手から感じることもよくありました」

 そんな選手たちの姿を思い浮かべ、指導法をイチから考え直した小川は、それまでと真逆の方向性を打ち出した。

2017年の春高バレーでは黒後愛などを擁して全国優勝 ©時事通信社

「強豪校を真似て『より厳しく』とやってきましたが、結果が出ないなら違うベクトルを模索するしかありません。バレーボールやチームメイトを好きだという、ポジティブな考え方を後押しする環境作りをすることを最優先にしました。放課後が早く来てほしい、体育館に行くのが楽しみになるような、好きで練習に打ち込むようにならないと、能力の高い選手のそろう強豪校に対抗できないと思ったんです」

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叩かない。罰を与えない。おだてるのも質が低い

 興味深いのは、あくまでも勝つために、暴力と違う方法にたどり着いたことだ。

「人はどうやったら頑張るんだろう、と考えたんです。選手を叩かない、罰を与えない。かと言って、ほめておだてるのも質が低いと思うんですね。それで行き着いたのが、練習の意図をちゃんと説明して、選手が理解して自発的に努力するという方向性。『選手が主体』ということです。だから同じサーブの練習でも、複数の選択肢を選手に提示して、選手自身が試行錯誤して自分たちにあった答えを見つけるのを我慢強く待つ。すぐにできないのは当たり前なので、それを見守る必要があるんです」

下北沢成徳高校バレー部の選手たちと小川監督 ©積紫乃

 こうして小川は「手をあげない、罵声を浴びせない」、高校バレー界では異色の監督になった。小川は自分が指導者として変化できた理由をこう語る。

「高校時代の経験が大きかったと思います。高1まではいわゆる体育会的な、厳しい指導を受けましたが、2年生のときから指導してくださった方が選手を尊重してくれて、選手が意見を言うのを聞いてくれて、自分たちでやる楽しさがありました。それを思い出して、『自分は強制されなかったときに楽しくバレーができていたんだ』ということに気がついたんです。自分の中にそういう体験がなかったら、指導を変えることはできなかったと思います」

 体罰が渦巻く女子バレー界で指導方針を一新した小川のもう1つの功績が、選手の育成だった。