「叩かない、怒鳴らない、選手主体」という指導方針を掲げて何度も全国制覇を成し遂げた下北沢成徳高校バレーボール部の小川良樹監督。新しいバレー部像、新しい部活像を象徴する1人だが、2023年の3月で、40年以上務めた同校の監督を退任することが決まっている。
小川が女子バレー界に起こした「反スパルタ」の風は着実に広まっているが、巷には、「下北沢成徳のようなエリート選手が集まる学校でしか、選手主体なんて実現しない」という声も根強い。小川はそういった声に反論する。
「野球やサッカーでも、体罰や暴言をやめようという動きは広がっていますし、高校バレーでもそう感じます。東京には約400の高校がありますが、表面からはなかなか見えなくても、特に若い先生たちには新しい指導法を模索する人も多いです。
ただ、強豪校では今でもスパルタ式の指導が多いと聞きます。『勝ちたい、結果を出したい』という欲が、指導者を体罰や暴言に走らせる。全国大会を競うような学校では特にその傾向があるでしょうね」
「中学校で頭ごなしの指導を受けてきた子は、言葉がない」
下北沢成徳に入って来る生徒たちの中でも、中学校の部活でスパルタ式の指導を受けてきた生徒はすぐに分かるという。
「中学校で頭ごなしの指導を受けてきた子は、言葉がないんです。『はい』しか言わない。先生や先輩の話に質問や口ごたえをせず、黙って聞く習慣がついています。でもそれでは、話が通じているのかどうかも分かりません。
やっぱり人間って、言葉にできないことは考えることもできないじゃないですか。だからそういう子には、『考えるために言葉にしていこう』と入学してきたときから何度も伝えます。相手が監督であるとか上級生であっても、思ったことを率直に伝えて話し合うことが大切。でも、心の扉が開くまでにはだいたい1年以上かかりますね」