ラノベ界になろう系の存在を注目させる先行者
アルファポリスの男性向け作品にしろ、『まおゆう』やこの年に丸山くがね『オーバーロード』を刊行開始したエンターブレインにしろ、たとえ編集者・編集部が同一でも「レーベル」として毎月定期刊行していくスタイルではなかった。基本的にはそれぞれ個別の作品として読者や書店に捉えられていた。
ヒーロー文庫創刊とその熱烈な支持は、「レーベル化」されるくらいなろう発の作品が「ジャンル」として顕在化し、まとめてアピールすることが「ウリ」になるほど機が熟したことを意味する。
刊行形態が「文庫」だった点も見逃せない。この当時、ラノベの主戦場は文庫であり、その読者は10代がボリュームゾーンとされていた。対してアルファポリスやエンターブレイン、レガロシリーズをはじめ(ケータイ小説を除くと)ウェブ小説の書籍化は四六判またはB6判ソフトカバーで展開していた。
書店ではこれらの単行本の棚の場所は文庫ラノベとは別の「一般文芸」棚の中かそれに近いところに置かれ(書店や時期によってはゲーム攻略本棚などの近くにもあったが)、購買層には社会人が多かったために「ラノベとは別物」と認識されていた。2010年代初頭から、講談社ノベルスなど売上が減少し続けていた新書サイズの小説の棚や一般文芸の棚をリプレイスしてウェブ小説書籍化作品の棚ができることも少なくなかったが、ノベルスなども中核的な読者は大人だ。
ところがヒーロー文庫は「ライトノベル」の「文庫」として刊行することで棲み分けを崩した。正確には2011年創刊のフェザー文庫がなろう書籍化をする文庫レーベルとして先行していたが、フェザーはトラブル多発によって成功を収めたとは言いがたく、実質的にヒーローがラノベ界になろう系の存在を注目させる先行者となった。
『はたらく魔王さま!』や『ソードアート・オンライン』『魔法科高校の劣等生』は電撃文庫の新人賞応募作家がウェブで書いていた作品を刊行したもので、「電撃文庫(ラノベ新人賞)の新人」という情報のほうが先に立っていた。
しかしヒーロー文庫は「なろう発」のほうが先に立つ文庫レーベルであり、イラストがあり口絵と挿絵があるラノベのフォーマットを踏襲していた。そしてなろうでは著名でもラノベ業界では「無名の新人」が次々にヒットを飛ばしていった。この衝撃が翌2013年以降に既存のラノベレーベルを擁する版元からのなろう書籍化ラッシュをもたらす。