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エブリスタのプロ利用作品『武装中学生』とマンガも売れた『奴隷区』

 エブリスタはこの年、何があったか。

 スクウェア・エニックスの人気RPG『ファイナルファンタジー』シリーズに携わってきたシナリオライター野島一成が『武装中学生 バスケットアーミー』の小説を公式サイトとE★エブリスタに連載を開始し、スピンオフの岡本タクヤ『武装中学生2045‐夏‐』が2012年にエンターブレインのファミ通文庫から、本編は2013年にエンターブレインから単行本にて刊行している。この作品はマンガ、GyaOで配信したショートアニメ、オーディオドラマと、クロスメディア展開された。

 特徴的なのは、一般ユーザーによるイラストや短編小説も募集したことだ。公式で同作の世界観をベースにした短篇小説を募集するコンテストが行われ、その投稿媒体としてエブリスタが使われた。

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『ウェブ小説30年史 日本の文芸の「半分」』(星海社新書)

『エヴァ』の二次創作だった『福音の少年』や『Wizardry』の二次創作だった『迷宮街クロニクル』の書籍版は著作権法違反を回避するために設定を改編して本にしていた。対して『武装中学生』は著作権者が公式で二次創作を募集した。『武装中学生』のコンテストは「優秀作品を書籍化する」と謳っていたものの本にはならなかったが、2016年にKADOKAWAが作った小説投稿サイト・カクヨムにおいて公式で『ゼロの使い魔』などの二次創作が許諾されたことに数年先行していた(もっとも、1990年代にもオンライン小説の読者参加型企画が存在していたが)。

 なお、2013年には米国Amazon.comのKindle Worldがライセンスを取得し、同社サイト上でカート・ヴォネガットの世界観やキャラクターを使用した二次創作小説の電子書籍販売ができるようになっている。ウェブや電子書籍上のCGMを使って公式で二次創作UGCを集めてコンテンツ/IPの盛り上げを狙う試みが日米で行われたことになる。

 ただ、日本ではマンガでも小説でも「公式アンソロジー」(著作権者が許諾して複数の作家が手がけた二次創作の商業出版物)は当たり前に存在しているにもかかわらず、なぜかウェブや電子書籍発の二次創作UCGに関しては紙の本にて「公式アンソロジー」として書籍化された例はまれだ。ヒットしたものはほぼ皆無である。ウェブ小説の多くが「先行作品のお約束を踏まえた上でアレンジして書く」「お約束を分かった上で読む」という、ある意味では二次創作的な感覚で読み書きされていることを思えば、おもしろくもふしぎな点である。