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一気に増えた転生・転移もの

 ヒーロー文庫創刊もあって、この頃から転生・転移ものの書籍化が一気に増える。たとえばArcadiaからなろうに移籍し、2015年のTVアニメ化を機に爆発的なヒット作となったむちむちぷりりんこと丸山くがねの『オーバーロード』、やはりなろう連載でアルファポリスから刊行され、同社が自ら2016年にゲーム化した金斬児狐『Re:Monster』などがこの年刊行された代表的な異世界ものだ。

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 この『Re:Monster』を書籍で買い、続きが読みたくてなろう版を読み始め、触発されて趣味として小説を書き始めた書き手のひとりが理不尽な孫の手である。秋山瑞人『イリヤの空、UFOの夏』に影響を受けた彼はラノベ新人賞に3年ほど投稿し、あきらめて2年経ったころに『Re:Monster』と出会い、かつて新人賞に応募した作品を元に書いた『無職転生』で2013年10月から2019年2月までなろうの全作品の中の累計ランキング1位に君臨することになる(*2)。『涼宮ハルヒの憂鬱』のフォロワーだらけだった2007年ごろに新人賞に投稿された『無職転生』(のプロトタイプ)に当時のラノベ業界は見向きもしなかったが、『無職転生』は2010年代には『ハルヒ』並みにラノベ界の潮流を変えたなろう系の代表的な作品になった。

*2 「ニートが異世界で人生を生き直す、「異世界転生」小説のパイオニア」、「ダ・ヴィンチ」2021年2月号、KADOKAWA、20頁

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 2012年刊行の作品では、個人サイトで活動していた人気作家・糸森環の女性向けファンタジー(転生・転移ではない)『花術師』(双葉社、4月刊)もこの年の重要作だ。糸森は同年5月から角川ビーンズ文庫から書き下ろし作品『花神遊戯伝』シリーズを刊行するようになる。これもヒーロー文庫創刊と並んで「ウェブ小説」と「ライトノベル」との垣根の揺らぎを象徴する出来事だった。