原作小説よりマンガ版の方が売れる時代へ
エブリスタのことに話を戻すが、同サービス発でこの年に刊行されたヒット作といえば、なんと言っても『奴隷区』だ。
岡田伸一『僕と23人の奴隷』が3月に双葉社から刊行され、コミカライズや文庫版は『奴隷区 僕と23人の奴隷』と改題、アニメ化・実写映画化に至った大ヒット作品である。
『奴隷区』や『王様ゲーム』のマンガ版は、書籍化された小説以上の部数を叩き出した。筆者がこの話を双葉社から聞いたのは2013年のことだった(*3)。
*3 拙稿「双葉社 出版基準は「わかりやすく、エグいもの」」、「新文化オンライン」、新文化通信(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/netnovel/netnovel03.htm)
そもそも小説のマンガ化自体がライトノベル発を除けば少なかったが、原作小説よりマンガ版の方が売れることは、ウェブ小説書籍化以前にはほとんどなかった。それが『王様ゲーム』『奴隷区』などに続き、2010年代中盤以降にはなろう系の異世界ものが書籍化した単行本よりコミカライズの方が部数が多いことは珍しくなくなっていく。
つまり2010年代前半に「ウェブで読者に支持される作品(企画)は、マンガでも売れるタイトルになりやすい」という性質が発見されたのだ。マンガもウェブ小説同様に「売れたもん勝ち」「人気作品こそがおもしろい」という価値観が、一般文芸と比べると読者にも作家にも比較的浸透しているという共通点がある。
もっともラノベもそうであるはずなのに、文庫ラノベのマンガ版がなぜ2000年代までは原作より売れなかったのかの理由は判然としない。コミカライズのクオリティが上がった、2010年代に起こったマンガアプリや電子書籍台頭以前/以後ではコミックス流通や認知のされ方が違う、といったあたりが理由だろうか。