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20世紀の残響が今も聴こえる

 今展はフランス、ベルギー、ボスニア、サハリン、朝鮮半島、また日本で撮影された作品を中心に構成されている。展示空間に身を置けば、記憶と歴史のうねりを肌身に感じるにちがいない。

 ときに展名に「残響」と付けられているのはなぜなのか。会場で会うことのできた米田知子本人の言葉を聞こう。

米田知子 Tomoko YONEDA  絡まる—マルヌ会戦の塹壕跡に立つ木々 Entwined—Trees in the middle of a former trench at the Battle of the Marne 2017 ©️Tomoko Yoneda  Courtesy by ShugoArts

「すでに21世紀に入って長い時間が流れましたが、20世紀の記憶や歴史は残響となって、いまだ大きな音を立てている気がします。それは打ち寄せる波のように、繰り返し繰り返し私たちの身を襲ってくる。そんな私の肌感覚をもとにタイトルを付けました」

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 20世紀の激動の歴史は、自身の記憶にも深く刻まれているという。

米田知子 Tomoko YONEDA  畑—ソンムの戦いの最前線であった場所/フランス Field—Location of the front line in the Battle of Somme, France 2002 ©️Tomoko Yoneda  Courtesy by ShugoArts

アートの持ち味と強みとは

「私の幼少時代は冷戦の真っ只中で、世界は東西陣営に分かれていました。世界には埋めがたい溝があり、激しく対立しているのが当たり前なんだと刷り込まれた。その強固な体制も1989年のベルリンの壁崩壊を機に解体されて、連帯の輪が広がるかと期待したのも束の間、絶え間なく紛争やテロリズム、国家間の戦争が続いて現在に至ります。残響はいつまでも消えず、新たな荒波がどんどん立ってしまうものですね。それでもなんとか希望を持ちたいし、光を見出したい。私の創作はそのための営みといえるでしょう」

米田知子 Tomoko YONEDA  空き地—テロ攻撃で破壊されたアメリカ大使館があった場所、ベイルート Vacant Space—Former location of the American Embassy, destroyed as a result of repeated terrorist attacks, Beirut 2004 ©️Tomoko Yoneda  Courtesy by ShugoArts

 戦火の渦中のウクライナに出向いて写真を撮るわけではないが、創作を通して現況を真摯に受け止めていることは疑い得ない。

「そう、私のやり方で喫緊の問題と向き合い、考え続けたい。想像力を用いて作品をつくることで、この世に争いが絶えないことの真因はいったいどこにあるのか、見極めたいんです」

米田知子 Tomoko YONEDA  窓 I、ソビエト国境警備所、ソルベ半島、サーレマー島、エストニア Window I, Soviet Border Guardhouse, Saaremaa Island, Estonia 2004 ©️Tomoko Yoneda  Courtesy by ShugoArts

 美を追求するアートは時代や社会と無縁と思われがちだが、そんなわけはない。思わぬ角度から光を当てることで、時代や社会の本質を照らし出すのがアートの持ち味にして強みである。米田知子の作品群が、そうはっきりと教えてくれている。

INFORMATION

米田知子「残響―打ち寄せる波」
シュウゴアーツ
2022年6月4日~7月9日

https://www.tokyoartbeat.com/events/-/2022%2Ftomoko-yoneda-echoes-crashing-waves