20世紀の残響が今も聴こえる
今展はフランス、ベルギー、ボスニア、サハリン、朝鮮半島、また日本で撮影された作品を中心に構成されている。展示空間に身を置けば、記憶と歴史のうねりを肌身に感じるにちがいない。
ときに展名に「残響」と付けられているのはなぜなのか。会場で会うことのできた米田知子本人の言葉を聞こう。
「すでに21世紀に入って長い時間が流れましたが、20世紀の記憶や歴史は残響となって、いまだ大きな音を立てている気がします。それは打ち寄せる波のように、繰り返し繰り返し私たちの身を襲ってくる。そんな私の肌感覚をもとにタイトルを付けました」
20世紀の激動の歴史は、自身の記憶にも深く刻まれているという。
アートの持ち味と強みとは
「私の幼少時代は冷戦の真っ只中で、世界は東西陣営に分かれていました。世界には埋めがたい溝があり、激しく対立しているのが当たり前なんだと刷り込まれた。その強固な体制も1989年のベルリンの壁崩壊を機に解体されて、連帯の輪が広がるかと期待したのも束の間、絶え間なく紛争やテロリズム、国家間の戦争が続いて現在に至ります。残響はいつまでも消えず、新たな荒波がどんどん立ってしまうものですね。それでもなんとか希望を持ちたいし、光を見出したい。私の創作はそのための営みといえるでしょう」
戦火の渦中のウクライナに出向いて写真を撮るわけではないが、創作を通して現況を真摯に受け止めていることは疑い得ない。
「そう、私のやり方で喫緊の問題と向き合い、考え続けたい。想像力を用いて作品をつくることで、この世に争いが絶えないことの真因はいったいどこにあるのか、見極めたいんです」
美を追求するアートは時代や社会と無縁と思われがちだが、そんなわけはない。思わぬ角度から光を当てることで、時代や社会の本質を照らし出すのがアートの持ち味にして強みである。米田知子の作品群が、そうはっきりと教えてくれている。
INFORMATION
米田知子「残響―打ち寄せる波」
シュウゴアーツ
2022年6月4日~7月9日
https://www.tokyoartbeat.com/events/-/2022%2Ftomoko-yoneda-echoes-crashing-waves