「堅気か、それはいい。ミキ、あいつを誘ってみろ」
田尻はそう小声でミキの耳元で囁いた。
賑やかな店内をミキは思案しながら歩く。彼女はVIP室に戻ると高坂の横に座り身体を密着させた。
高坂は建設会社の二代目社長だった。一晩で数百万円を使うこともザラの上客である。Xでのお気に入りがミキだった。
「お友達がやっているバカラ屋さんがあるの」
「高坂社長っ、この後はどうするの?」
甘えたような声でミキが耳元で囁く。
「アフターに行きたいのか。よし朝まで飲むか!」
高坂が上気した声でミキの肩を抱き寄せる。
「じつはお店が終わったら支配人と約束があるの。お友達がやっているバカラ屋さんがあるの。せっかくだから高坂さんも来ない? 私、高坂さんと一緒に行きたいなー」
ミキは酔ったふりをしながら高坂の身体に更に身を預ける。
「バカラ?」
会社社長は素っ頓狂な声をあげた――。
闇カジノを経営していく上で、重要なプレーヤーは…
闇カジノを経営していく上で、重要なプレーヤーとなっているのが“ジャンケット”と呼ばれる存在だ。路上に立つ客引きとの違いは、ジャンケットは自らの人脈から客を店に連れてくることにある。X支配人田尻の裏の顔が、ジャンケットなのだ。ジャンケットが客を闇カジノに誘い込むパターンの1つが上記のような酒席での勧誘なのだ。
闇カジノや高レート麻雀などの、いわゆる違法賭博と呼ばれるものは港区、新宿区などの繁華街のなかで秘密裏に行われている。雑居ビルのなかの隠れ店舗だったり、高級マンションの一室といったところが店になっているケースが多い。
客の多くは繁華街の人脈から、賭博場に誘われて嵌っていくというパターンが多いとされている。友人に連れられていくパターンや、飲食店の従業員に誘われるパターン、女性に誘われるパターンなど様々だ。ジャンケットと店はグルであることが多く、客を嵌めて、その負け額の50%ほどをジャンケットは懐に入れるのである。芸能人がジャンケットをしているというケースもあるといわれている。