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④栗田ひろみ

 

 自分で言うのも何だけど、僕の性格はとてもしつこい。一度、好きになったものはずっと好きでいられる。そりゃ中学生時代に比べりゃ気持ちの方は随分治まったけど、“青春ノイローゼ”は未だ完治していない。それは単なるファンとアイドルの一方通行な恋だったから、何も始まっちゃいないし何も終わってはいないのだ。

 僕が一生涯で一度だけ(この先も無いと確信してる)恋をしたアイドルの名は栗田ひろみ。 

 

 1972年、雑誌「週刊プレイボーイ」のグラビアページで初めてその存在を知った。

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 彼女は今で言う“グラドル”の魁(さきがけ)であり、その一般的なアイドルとは一線を画してたところにもグッときたわけだ。

 週プレ巻末のプロフィールには“東池袋に住む栗田裕美クン”と紹介されていて、僕はいつかその東池袋という街でバッタリ君と出逢い、そしてゆくゆくは結婚するところまで夢見ていた。通学の定期入れに雑誌から切り取ったことがバレバレな彼女のセーラー服姿の写真を入れ、友達に「つき合うてるコなんや」と見せびらかしては「おまえ、頭大丈夫か?」と心配されるほどになった。

 

 だから君(とまで呼ぶが)が映画やテレビに頻繁に出たり、レコードまで出すといういわゆるスター街道まっしぐらになった時、うれしい反面、僕だけの君じゃなくなったと思い、とても淋しかった。ヌードにもなったんだよね。これには本当、弱った。知らない野郎どもに君の裸を見せたくない一心で僕はとりあえず近所の本屋でそのヌードが載った雑誌、全部買った。ま、3冊なんだけど。

『いつのまにか少女は』っていう、主演映画『放課後』のエンディング曲。その切ない歌詞通り、君は季節が変わるみたいに大人になった。僕は1人、取り残された気持ちになって、壁中にびっちり君の切り抜き記事やポスターを貼りめぐらせた部屋で悶々とした日々を送ってた。

 そのせいか学校の成績は急降下(って、元々ダメだったけど)、両親もそんな息子を大層心配してた。“これじゃいけない!”と、ある日君に関する全てのものを捨てる決意をした。それが今となっては後悔のタネ。あれから40年以上、時が流れて僕はコツコツとまたそれらを買い直している。先日も映画のロビーカード、古本屋で見つけて飛び上がるくらいうれしかった。

 還暦過ぎてもずっと僕の片想いは続いてる。

※2022/07/06 11:40……栗田ひろみさんのお名前に誤りがありました。お詫びして修正いたします。

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