千昭が未来へ去り、ようやく自分の気持に気づく真琴。それは恋を自覚した苦しさというより、タイムリープを繰り返して、千昭の自分への告白を何度もないことにしてしまった――前へ進もうとしなかった自分の行為への後悔を含む、苦い感情だ。
「どちらとも友達のままだと思っていた」
そんな真琴に和子は、「真琴は功介くんとも千昭くんともどちらとも友達のままだと思っていた」と語り始める。「どっちとも付き合わないうちに卒業して、いつか全然別の人と付き合うんだろうなって」と話しかける。それに頷く真琴。そして和子は、自分の初恋を語り始める。
「高校の時、初めて人を好きになった。会ってすぐ仲良くなったの。まるで子供の頃から知ってるみたいだった。大人になる前にダメになっちゃった」
「いつか必ず戻ってくるって言ってた。待つつもりはなかったけど、こんなに時間が経っちゃった。……長くはなかった。あっという間だった」
普通の初恋物語のようにも聞こえるが、「まるで子供の頃から知ってるみたいだった」という一節は、大林版の記憶の操作を思い起こさせるし、なによりこの時、カメラは書棚に飾られた高校時代の和子の写真を映し出している。
そこには彼女を挟んで、2人の男子学生(背の低いほうの男子が吾朗に相当するのであろうか。原作の記述を踏まえずんぐりむっくりに描かれている)が映っている。そして写真の側にはラベンダーの花。
こうした符丁から、この和子は、偽物の記憶から生まれた本物の恋に殉じていることを自分の意思で選び取り、今ここにいるであろうことが浮かび上がってくる。彼女はその決断を後悔はしていない。「待つつもりはなかった」「長くはなかった」という言葉にその意思の強さがにじむ。
自分の人生を示した和子はその上で、「あなたは私みたいなタイプじゃないでしょ。待ち合わせに遅れてきた人がいたら、走って迎えにいくのがあなたでしょ」と真琴の背中を押す。人生の先輩として、真琴には真琴の決断があることを促す。それは真琴がこれまでのモラトリアムに幕を引く、大事な儀式だ。
細田版“和子と真琴の関係”と『おジャ魔女どれみ』の距離
この細田版の和子と真琴の関係は、よく指摘される通り、細田監督が演出を担当した『おジャ魔女どれみドッカ~ン!』の第40話「どれみと魔女をやめた魔女」の変奏でもある。
このエピソードでは、魔女となり永遠の命を得た未来という女性が登場する。演じるのは大林版で和子を演じた原田知世だ。