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大林版を際立たせる「原作からの決定的な変更点」

 それに対し大林版は冒頭に「ひとが現実よりも理想の愛を知ったとき、それはひとにとって、幸福なのだろうか? 不幸なのだろうか?」と置く通り、古風な愛の物語として『時かけ』を取り扱った。

 そのため和子は高校生で、既に恋という感情を自覚しつつある少女として描かれる。

 例えば序盤、自転車を避けた瞬間、和子は深町の胸に飛び込んでしまう。帰宅後、彼女は自室でキス人形にキスをさせつつ、その時のことを思い出すのである。

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 そしてクライマックス、和子は、深町との幼い頃からの思い出が、実は吾朗との思い出を彼が超能力で書き換えたものであることを知る(このためにこの映画は冒頭の列車のシーンで、吾朗が深町に席を譲る様子を描いて、その立ち位置を暗示している)。

 そんな残酷な真実に対して和子は「でも私の気持ちはウソではなかったわ」「あなたとの思い出を大事に大事にして生きていきたい」と自分の思いをぶつける。

 恋とは選ぶことだ。そして選んでしまった以上、元に戻ることはできない。土曜日の実験室で深町と会う直前、和子は吾朗に「ありがとう」と告げ、そしてその背中に「さようなら」とつぶやく。この時、彼女は選んだのだ。偽物の記憶が生んだ、本当の恋に殉じる道を。

 映画は最後に、吾朗とも結ばれず、薬学の研究者として生きる和子の姿を描く。そこに深町らしい青年が通りかかるが、和子は気づかず、青年の後姿はドリーズームでさらに遠ざかっていく。

大林版の残した問い「その後の和子」と細田版、谷口版の“答え”

 和子はあのあとどう生きたのだろうか。大林版の中にその答えはない。だからこそ、“続編”の体裁をとる細田版と谷口版にはそれぞれの「その後の和子」についての、2つの作品なりの解答が示されている。

 細田版は、紺野真琴という少女と、間宮千昭、津田功介という2人の少年の物語だ。真琴は恋愛の絡まない3人の関係がずっと続いてほしいと思っている。真琴は、恋愛にというより、(大雑把な性格の割に)未来に臆病なのだ。

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 彼女は決定的な選択をせず、モラトリアムの中にいたいと無意識のうちに思っている。だから彼女は、タイムリープの能力を手に入れると「同じことを何度もできる力」「あったことをなかったことにする力」として活用する。

 そんな彼女が悩み事を打ち明ける相手が、真琴の叔母である芳山和子だ。演じるのは原沙知絵。彼女は博物館で絵画修復の仕事をしており、真琴からは「魔女おばさん」と呼ばれている。「魔女」の言葉通り、ちょっと浮世離れをした雰囲気で、真琴がタイムリープをしたのだと説明をしてくれるのも彼女だ。