阪神タイガースで不動のセンターを務めた赤星憲広氏。「赤い彗星」「レッドスター」の愛称で親しまれた同氏は“盗塁王”のイメージが強い。が、ゴールデングラブ賞を6度も受賞するなど、守備の名手でもあるのだ。
ここでは、そんな赤星氏が「プロの外野守備」を徹底解説した著書『中堅手論』(ワニブックス)から一部を抜粋して紹介。プロ野球選手や監督、チームの“守備理論”を、赤星氏の視点で解説する。(全2回の2回目/1回目から続く)
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東京五輪ドミニカ戦は「あれ」が正解
東京五輪で日本の初戦、対ドミニカ共和国戦(21年7月28日、福島・あづま球場)。
1対2の8回裏、四球出塁の一番・山田哲人(ヤクルト)を坂本勇人(巨人)が捕前バントで送った一死二塁。三番・吉田正尚(オリックス)の浅いレフト前ヒットで二塁走者・山田は本塁突入するも、レフトからの好返球でタッチアウトになった。
二死ならまだしも、8回1点ビハインドなのだから無理をせず、一死走者一・三塁から四番・鈴木誠也(広島)のヒットまたは犠牲フライ待ちという考え方は確かにある。
三塁コーチャー・清水雅治さんの判断が疑問視されたが、それは外野手以外の選手の考え方だ。僕から言わせれば「いや、当然回すでしょ」という場面だった。外野手出身の清水コーチの判断が正解だ。
なぜなら日本は当然、ドミニカ共和国の選手の守備情報を収集済みのはず。捕球、肩に劣るレフトに打球が飛んだ。そのポジショニングはどうか。走者は俊足・山田。スタートが悪かったら止めている。コリジョン・ルールでキャッチャーがブロックできない。
かつてなら8割セーフでないと本塁突入させなかったのが、コリジョン・ルール以降、6割セーフなら突入させる傾向にある。
どんな好打者であってもヒットが出る確率は10度に3度。犠飛が出るかどうかわからない。
送球がそれてセーフだったら「二塁走者はナイスラン。三塁コーチはよく回した」と言われていたはず。もし、四番打者との勝負で内野ゴロ併殺、無得点だったらどうだろう。
「その前に、なぜ本塁に突入させておかなかったんだ!」となる。
セーフの可能性は10度に9度。あんな好返球は10度に1度。それにはまってしまっただけ。言うなれば相手レフトのファインプレー。要するに「本塁アウト」はあくまで結果論でしかない。