3月16日に起きた福島県沖地震の被災地。最大震度6強を記録した同県相馬市では、シャッターを閉めた店や、崩れたままの建築物が目立ち、極めて深刻な状態だ。
そうした中には廃業を決め、市民にショックを与えた店もある。
「ひと味違う」と人気があった五十嵐豆腐店。
江戸時代の創業で、店主の五十嵐修一郎さん(72)は6代目だった。
しかし、店舗が全壊状態になり、再建のメドが立たなかった。この原稿が掲載される頃には、相馬市役所の近くにあった店舗は解体され、更地になっているだろう。同市では最後の豆腐店だった。
「もし、地震の発生時刻が…」
「もし、地震の発生時刻がずれていたら。そう考えるだけでも恐ろしいですよ」と、五十嵐さんは話す。
地震が起きたのは3月16日午後11時36分。あと30分もすれば、五十嵐さんが起床する時刻だった。
毎日午前0時に寝床を出て、自宅裏の店舗へ向かう。ぐらぐらと湯を煮立たせることから作業を始め、朝方には隣の建物の作業場で妻のよし子さん(67)が油揚げ作りに取り掛かっていた。これが夫妻の日課だった。
ところが、店舗と油揚げの作業場の2棟は大破した。
「店は1階と2階の柱がずれてしまいました。もっと酷かったのは油揚げの作業場です。全体が大きく斜めに傾き、潰れそうに。アルミサッシは折れ曲がったり、吹き飛んだりしてしまいました。もし、あの時に妻がいたら、大ヤケドを負っていたでしょう。助け出せないほどの潰れ方なのに、火事になっていたかもしれません。誰もいない時間でよかった」と、胸を撫で下ろす。
建物は共に築後60年を超えていた。
倒壊寸前になった油揚げの作業場は、もとは家族が住んでいた建物だ。2011年3月の東日本大震災では「ちょっとやられた」程度だった。それが、2021年2月に震度6強を記録した地震で「隙間ができ、向こうが見えるぐらいになった」。そして今回は「ドサーンとやられてしまいました」と話す。